
東京大学新聞社では、総長選考の第1次候補者9人全員に対面でのインタビューを申し込みました(うち、宮園候補はすでに候補者を辞退しています)。
9人全員からお返事をいただき、2人からはすでに対面で取材にお応えいただきました。さらに、複数の方から第2次候補者に選ばれたた場合にのみ取材にお応えいただけるという回答をいただきました。
本記事では、社会科学研究所長の宇野重規候補へのインタビューを掲載します。
(候補者取材の全体へはこちら)
──辞退という選択肢もある中で、代議員会からの推薦を受けたのはなぜですか
今回の総長選考は東大の大きな転換点であり、誰が総長になるにしても、東大の未来について議論するための大切な機会です。私の専門は政治思想史・政治哲学です。実践にすぐ結びつくわけではありませんが、社会のあり方を根源的に考える研究分野に属する者として、特に人文社会科学や基礎研究の重要性を問題提起し、多様な学問の視点を議論の中に持ち込むことに意義があると考え、推薦を受けました。
──東大の強みはどこにありますか
強みの一つは、この大学が持つ「学問の幅広さ」です。例えば、ニュートリノの到来を待ち続けて宇宙の生誕を探求する研究者がいる一方で、加速させた素粒子をぶつける実験を行い、物質と宇宙の構成を探る研究者もいます。同じ大学に、まったく違う手法で宇宙を探究する人たちがいる、この豊かさが私は好きです。
私は言語や国家、宗教などの成り立ちを考えることに魅かれますが、社会実践とは一定の距離があります。一方で、新学部・UTokyo College of Designのように、具体的な社会課題解決を目的とする分野にも関心があります。いくら探しても結論はないかもしれないものを探求する学問と、すぐに役立つことを期待される学問の両方がある。学問の幅広さを包摂しているところが東大の強みだと思います。
──6年間の総長任期では、どのようなことに注力したいですか
大前提として、財政再建とガバナンス改革が不可欠です。東大は今、深刻な財政危機にあります。繰越金に余裕がなくなり、このままでは赤字額が拡大し続けるおそれがあります。人事院勧告や物価高騰への対応、教育や基礎研究、医療などの公共的使命、さらに大学として合理化できる部分を切り分けて明確化し、それぞれに必要な改革をすることが急務です。
ガバナンスの点では、不祥事が続き、東大のガバナンスを社会は厳しく見ています。何か問題があったら、部局や研究室を超えて気軽にみんなが相談できるようにしたい。組織の中に信頼を生み出し、悪い知らせが自然と上がってくる環境を作りたいと思います。互いに口出しをしないという文化を変えなくてはなりません。東大の自浄能力を示すべきです。
この二つ(財政再建、ガバナンス改革)は東大の信用に直結します。ただ、これらは大切な道筋であっても、ゴールではありません。それを通じて東大の姿が変わってほしいと考えています。今まではどうしてもそれぞれの部局、専門に分かれがちでした。学内の知が様態を変えてつながり、大学として短期的な成果ばかりを追わなくても、自発的にいろいろな着想が生まれ、結びつき、次につながる……という、「知の自己創発システム」としての東大が理想です。そのためにもまずこの二つの問題を優先して取り組みたいと考えています。
学問は廊下の立ち話から生まれると思っています。教授会などの行き帰りの何気ない雑談から異なる見方を知り、知の創発が始まることがあります。ただ、コロナ禍以降はどうしても教職員がお互いに話す機会が減りました。どうにかしたいと思い、私の研究所でも建物を一部改装し、雑談できるスペースを作ってみました。それでもコミュニケーションは減ったままです。
小さな研究所でもこの現状ですから、大学全体では、なかなか他の組織のことが分かりません。その結果、良いことも、悪いことも、他で何か動きがあっても、気付くことも口を出すこともできません。
もう少し気軽に話し合える環境を整えたいですね。「東大は巨大すぎて、何を言ってもきっと変わらない」という、どこか諦めに近いような感覚を払拭する必要があると思います。
──数は多く、独立性も高い部局を、総長はどう束ねていくべきだと考えますか
東大を一つにまとめるには総長のリーダーシップが不可欠です。本部の役割も強化しなければなりません。しかし、それは本部がすべてに指示を与えることではありません。大切なのは一人一人の研究者や専門ごとの価値観、方法論、研究スタイルを尊重しながら、それぞれの才能や努力を生かし、まとめていくことです。未来の不確実性が高い現在において、大学組織は基本的に一人一人の研究者や専門ごとの自律性を尊重した、フラットなガバナンスがむいていると思います。
ただ、これだけ多くのステークホールダーのいる東大では、ただバラバラにやっているだけではいけません。財務、人事、国際化、DEI推進などに関しては、大学として一つの大きな理念や、ミッションを共有する必要があります。総長や本部の役割は、大学全体として向かう方向性を示しつつ、実際の研究のレベルでは、分散的なガバナンスを行うこと、いわば理想は「ミッション主導型の分散的ガバナンス」です。
──藤井総長は「対話」の重視を掲げていました。藤井総長の「対話」についてどう評価していますか
藤井総長は「対話」のために、本当に尽力されてきました。総長対話や、Open Dialogueの機会を数多く実現してこられました。大変な取り組みだっただろうと頭が下がります。
ただ総長対話も重要ですが、日々の現場のコミュニケーションも大切です。多様な立場の教職員や学生が参加し、情報を共有し、日々の相談ができる組織文化を発展させる必要があります。
私は理想の総長像として「スチュワード」であることを考えています。大切なものを預かり、丁寧に世話し守る執事のような存在です。大学という非常に価値のあるものを預かり、未来に渡す。本部は上から統制するものではありません。東大という価値ある存在を守り、研究や勉強がしたい人に環境を整備するのが本当の役割です。
もう一つの理想像として、「庭師」という比喩も考えています。庭師は、植物の伸びようとする力を尊重しつつ、必要なものを与え、時にトラブルがあればケアをします。総長は、大学に対してそのような姿勢でいるべきではないでしょうか。
そして、本部や総長が「スチュワード」「庭師」として東大を支える存在だと、各部局や構成員から認識してもらえる信頼関係を作りたいです。誰もが安心してコミュニケーションをできる環境を整えることで、藤井総長が掲げた「対話」が確実に根を下ろすのではないかと考えています。
──国際卓越研究大学(卓越大)の意義についてどのように考えますか
卓越大は東大が変わる梃子でなければならないと思います。自らの理想を実現するために活用すべき制度です。
大学は、30年後、50年後の社会と学問を考えて自律的に経営されるべきです。ところが国立大学法人は単年度主義で、毎年の収支を基準に経営されています。本来あるべき長いスパンで考えられる余裕を作り、視野の広さを失わないためには長期的な資金が必要です。社会に大学の価値を認めてもらい、寄付や企業との共同研究、受託研究などで投資をしてもらいます。大学は集めた資産を自律的に運用する[setsumeiword=”endowment”]型の経営を確立すべきです。
単年度主義の打破やエンダウメント確立の第一歩として卓越大を活かすことには賛成ですが、その前提にあるのは大学人の自律的な改革です。卓越大は赤字の埋め合わせにはなりません。あくまでも東大は自律的にエンダウメント型経営を確立すべきであり、そのための時間的余裕を得るために卓越大の制度を活用すべきです。
卓越大を真に活用するには、学内合意が欠かせません。資源配分の基準の明確化にますます力を入れる必要があります。
例えば、国際統合研究基盤(GRI)です。研究者が一つの大学に縛られず、世界規模で大学を移動することで生み出される国際的な知の循環システムにおいて、東大が東アジアの一大拠点を目指す理念は素晴らしいと思います。
個人的な経験としても、比較的若い頃にフランス・アメリカ・ドイツなどに滞在し、いろいろな人とさまざまな議論をしたことが今につながっていると実感しています。ですから今の若い学生さんや研究者にも、なるべく早い時期に海外に出て、世界の知の循環システムに自分も入っているという実感と、その世界の厳しさを知ってほしいという願いがあります。
ただ、GRIを実現するにあたり、各部局から採用可能数を集約するだけであれば、教育や研究において不安が生じ、特定の教職員の負担が増加するおそれがあります。そうならないための手当が必要です。
学術ユニットを創設する計画もあります。既存の部局を前提にしつつも、さらに部局を超えた研究のつながりを作り、学問のダイナミズムを実現することは重要な取り組みです。ただそれがもし、結果がすぐ出る分野に予算が集中的に投下され、基礎研究や人文社会科学などが軽視されるという不安をもたらしているとすれば、問題です。重点領域をめぐる戦略性の前に、まずは学問の自由と多様性を守ることが最重要であるというメッセージを、あらためて力強く発信すべきです。大学構成員の信頼を背景に、改革を進めるべきです。
GRIも学術ユニットも東大を改革する上で、大切な仕組みです。その際、本部のイニシアティブと、それぞれの研究組織の自律性が、相互補完的であるべきです。
──藤井総長の6年間をどう評価していますか
ダイバーシティ推進への取り組みが特徴的でした。経営協議会や運営方針会議のような学内の重要な会議にも女性や、外国人のメンバーが増えて、雰囲気が大きく変わったと思います。多様な背景を持つ委員の意見はやはり刺激的です。東大の総長となる人材も、世界からより幅広く見つけてくるべきではないかという意見もありましたが、印象的でした。
ただし、改革はまだ途上にあると思います。藤井総長の任期中に、プロボストの設置をはじめ、大学の制度が大きく変わりました。もともと部局の連合体としての性格が強かった東大が、いまやOne Todaiに向けて大きく変わりつつあります。新しい東大へと向かう改革を、多くのステークホールダーの共感と信頼を得て、加速すべきです。東大が大切にしてきた価値を守るためにこそ、改革が必要です。
──DEIについてどのように考えますか
人口の半分が女性なのに、学生も教員も女性が半分からほど遠いことは、東大が社会に存在する多くの才能を取りこぼし、活かせていないことを意味します。東大で活躍したいと思ってもらえないということ自体が問題です。
私の専門の政治学でも、女性の視点を抜いて考えることは、偏った研究につながりかねません。分野によっては、女性や外国人の割合が低いこと自体が研究の質に直結するでしょう。DEIの推進は不可欠です。
まずは多様な人々に東大で活躍したいと思ってもらうことが重要です。学問を志し、挑戦するすべての人を応援すべきです。誰もが働きやすいキャンパス環境の整備も不可欠です。そのために長期的に粘り強い努力を続ける必要があります。
DEIは特定の人のための理念ではありません。DEIの推進によって、自分たちの環境が良くなっているとすべての人に実感してもらう必要があります。DEIを通じて「学問の卓越」に貢献するという姿勢でこれからも進んでいくべきです。
──2027年秋に新学部・UTokyo College of Design(UT/D)が創設されます。UT/Dの役割をどのように考えますか
私はUT/Dの掲げる「デザイン思考」に注目しています。デザイン思考はユーザーの視点に立ち、課題解決に向けて、使う人の共感に訴えます。UT/Dに学ぶ学生からどのように新しい社会のデザインが提案されてくるのか、本当に楽しみです。
デザイン思考には4つの角度からのアプローチがあります。①エンジニアリングのデザイン、②経営・マネジメントのデザインに加えて、③アート系のデザインと、④学問や科学をめぐる哲学的検討が合わさると考えが深まります。UT/Dには、サイエンスとアートを結びつけ、哲学に基づいて、分野横断的な知性をはぐくむ場になることを期待しています。
──大学のガバナンスについて、お考えをお聞かせください
大学のガバナンスにおいて、財政規律や、迅速な問題解決など、企業のマネジメントから学べることはたくさんあります。しかしながら、大学にとって、自由、長期的視野、失敗の許容、多様性、そして問い直す知性が何よりも大切です。配分すべきは資金だけではありません。研究者が伸び伸びと自由に研究できる時間と環境こそが、大学が用意すべき最も希少な資源です。自由と長期的視野を守ることは、理念であると同時に、不確実性の下で最も賢明な未来戦略でもあります。
CFO(最高財務責任者)をはじめ経営の専門家を業務執行の中核と位置づけ、総長は全学の方向性を示し、最終責任を負うべきです。
──危機的な財政状況の中で、限られた資金をどう配分するべきだと考えますか
世界から優れた人材を集め、若手研究者を支援すべきです。その上で、研究時間確保のための負担軽減、全学共通の研究インフラの整備、部局横断型の重点研究拠点への投資、運用益を生むエンダウメント構築のための仕組みづくりに集中すべきです。直ちに結果は出なくても、将来の東大に備えた投資をする必要があります。
大学は命令では動きません。信頼によって動きます。構想だけでは足りません。その構想への信頼が必要です。可視化された事実を共有し、率直に議論し、その声が意思決定へと届く経路をつくります。
これからの6年は、その後を見据えたスタートダッシュの期間とすべきです。まずは、ガバナンス改革とリスク管理を徹底します。さらに大規模基金の形成、資産運用体制の確立、寄付文化の定着によるエンダウメント型経営を実現します。その上で、主要な事業の会計が見え、資源配分の理由が納得できるように、十分な説明がなされ、多様な声が意思決定に届く仕組みが機能する大学にします。
情報の共有がますます大事になります。多くの人が、大学の運営を我がことのように感じ、自分にできる改革を率先して行える環境を整備していきたいと思います。私は民主主義を「参加と責任のシステム」と考えています。より多くの人に東大の運営に参加し、その責任の一端を担っていただければと思います。
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【総長選考2026】宇野重規候補インタビュー 2026 IUSTITIA.BG – Investigations 2009-2025 2026-08-13 13:01:19
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