東京大学新聞社では、本年度実施の総長選考の候補者全員に対面でのインタビューを申し込んでいます。
本記事では、第2次候補者に選出された、理事・副学長で大学院法学政治学研究科教授の山本隆司候補へのインタビューを掲載します(取材は9月16日に行いました)。
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──辞退という選択肢もある中で、代議員会からの推薦を受けたのはなぜですか
東大には大変お世話になりました。これまで多様な人々に出会って多くの刺激を受けた場ですし、恵まれた研究環境を与えていただきました。そうである以上、一定の方々からご支持をいただいたのであれば、それをお受けして、東大のこれからについて一緒に考えていく必要があると考えました。
これは東大に限らない話ですが、現在、国立大学の学長に求められる資質は多岐にわたり、その全てを満たす人物を探すのは極めて難しいです。私自身の力も限られてはいますが、完璧な総長を目指すことは誰にとっても不可能であるという前提に立つならば、私にも果たせる役割が何かあるのではないかと考え、お引き受けしました。
──東大の強みはどこにありますか
学生時代も今も、いろいろな面白い考え方の人や、志の高い人が集まっていて、常に刺激を受けられるところが東大の強みです。個人だけではなく、大学としてもさまざまな学問の方法論が集まっている点も強みです。
──数が多く、独立性も高い部局を、総長はどう束ねていくべきだと考えますか
多くの部局の情報を総長が自ら全て集めて、意見をまとめるのは不可能でしょう。総長の役割は、まずは大きな方向性を示し、どうしても意見が分かれて一本化できないときには最後の決を下すことです。方針を示した上で、決断を下すに必要なだけの、意見・情報を集める仕組みを作るのも必要です。
学内にはさまざまな会議体があり、総長の対話の場も設けられています。学外からは、運営方針会議や経営協議会などで意見を伺います。これらの場を活用し、学内外の意見・情報を集めます。よく「学内」と「学外」という図式で語られがちですが、実際にはそれほど単純に区別できるものではありません。
問題は、学問を社会のために発展させる中、長期的に大学がすべきことと、短期的な課題に対してすべきことは、必ずしも一致しないことです。中長期的な役割と目の前の問題で、どうバランスを取り、折り合いを付けるのか、多様な意見を聞きながら考える必要があります。
──藤井総長は「対話」の重視を掲げていました。藤井総長の「対話」についてどう評価していますか
藤井総長が対話を重視されたことは非常に重要でした。私自身も、教職員の間で行われたOpen Dialogueに理事・副学長として何度も参加し、総長とともに個々の教職員の声に耳を傾ける機会を得ました。いくつもの重要な指摘をいただくとともに、多様な視点の存在を実感し、対話の重要性を強く認識しました。
対話にはさまざまな目的や順序があります。全てを決めた後の「説明の場」も重要ですが、決定前に意見を聞くことが不可欠です。ブレインストーミングのように自由に幅広く意見を聞くものもあれば、大学側がある程度設定した特定の問題に対する考えを問うものまで、対話の場の設計は整理する必要があります。
教育・研究の現場はまさに各部局にあるので、総長だけでなく部局の果たす役割は大きいです。現場でどのように意見を集め、説明するのか。部局と総長、大学本部がうまく協力し合いながら、大学全体としての対話を進めることが重要です。
──国際卓越研究大学(卓越大)の意義をどのように考えますか
卓越大の目的は、国際水準の研究力、そして研究と不可分一体である教育の力を長期的に維持・向上させること、そのための強固な財政基盤を確立することにあります。この目的は、東大が目指す方向性と合致しており、認定に向けた努力は不可欠です。
多額の公的資金が入る以上、短期的・数値的な成果や大学ランキングといった「目に見えやすい成果」がどうしても強く求められる側面があります。本質的な目標や学問の自律性を損なわないことが重要です。何が中長期的な目標の達成に資するか、どこまで踏み込むと長期的基盤を損ねてしまうかを見極め、本部と各部局が一体となって議論を重ねなければなりません。
まさに現在議論を詰めている最中ですので、卓越大の計画への学内の理解は細部まではまだ十分に行き届いているとはいえません。もし認定された場合も新たな課題や検討事項が次々と出てくるはずです。改革の具体像を共有し、理解を深めるプロセスは途上にあると言えます。今後とも学内での丁寧な対話と説明を重ねる努力は欠かせないでしょう。
──藤井総長の6年間をどう評価していますか
特に社会的・国際的な活動の場やネットワークを広げた点は評価できると思います。元々、藤井総長は就任前から社会連携に携わってこられました。そのご経験を生かして大きく貢献されたと受け止めています。
一方で、活動の拡大に見合う形で体制が整えられてきたかというと、そこに問題があったのではないでしょうか。現に今、ガバナンスのあり方が厳しく問われています。これには多様な要因があり、社会的・国際的なネットワーク拡大に直接起因するものばかりではありませんが、やはり全体として体制作りがどうであったかは検証しなければなりませんし、ガバナンス改革という形で東大全体として現在取り組んでいるところでもあります。
──6年間の総長任期では、どのようなことに注力したいですか
こうした課題を踏まえ、もし仮に私が総長となった場合には、東大が多様な活動を展開する土台となるガバナンス体制をしっかりと構築することに最も注力したいと考えています。制度そのものを設計すること自体は6年間を待たずとも可能かもしれませんが、その制度が実効性をもって機能するには時間がかかります。在任期間を通じて確固たる体制を整え、それがうまく回るようにしていきたいです。
──DEIについてどのように考えますか
多様性は、深く掘り下げると非常に重層的で難しい概念です。根底には「個人の尊厳」があります。個人の尊厳が守られることそれ自体が目的ですし、同時に学問や研究の発展にとってもそれは不可欠です。多様な考えやバックグラウンドを持つ個人が東大に集い、共に学び、研究成果を社会に還元することこそが知の発展の源泉になります。
現状の課題に目を向けると、男女という区分について議論はあるものの、目標を考える上での指標として見た場合、学部における女子学生比率は約2割で伸び悩んでいます。女性の教員の割合や管理職の比率、学部レベルでの留学生比率なども含め、まだまだ取り組むべき課題が多いです。
これをどう改善するかは一筋縄ではいきません。例えば、女性教員比率の数値目標を掲げることは、推進の契機としては必要ですが、数値だけが一人歩きすると弊害も生じます。一般企業でも役員の女性比率を上げるために社外取締役の女性比率を上げる方策をとるとか、審議会委員等の女性比率を上げることに伴い特定の方に負担が集中するとか、考えるべき波及的現象が見られる場合があります。
研究者の女性比率を増やすには、その分野を学ぶ学生から着実に増やす必要があります。女性教員を中心に学生との対話の場を設けたり、情報発信を行ったりと、地道な取り組みが各所で進められています。そうした根底からの積み重ねこそが重要です。
DEIの実践は、現場ごとに難しい課題に直面します。課題の中にはコストをかければ解決できるものもあるかもしれませんが、予算にも限界があります。それぞれの現場で直面する問題を、一つ一つ地道に解決するしかありません。
さらにいえば、そもそも「多様性」が区別を前提にしているという難しさがあるために、考え始めると本当に際限がありません。例えば、首都圏のいわゆる進学校出身の学生が多いという指摘がありますが、恵まれた環境で真剣に勉強してきたこと自体は何ら問題ではありませんし、そうした学生を減らしたり制限したりすればよいという話では決してありません。ただ、現実にそうした傾向がある中で、学生の多様性という観点からどう受け止めるべきか。
2010年頃に、国家公務員などについていわゆるクオータ制が検討された際の議論にも関わったことがあります。クオータ制については、当時も今も同様の議論があります。当時、一律の数値的基準に対しては、女性の委員の方などからも、評価基準を区別してしまうものとして、慎重な声が上がりました。
「無意識のバイアス(アンコンシャス・バイアス)こそが問題」と言われますし、その通りだと思います。それは社会で積み重ねられて形成されてきたものですが、では、「無意識のバイアス」とは具体的に何か、それを具体的にどのように改善するべきかと問われると、あるところまでは答えられますが、それを越えると答えることが難しいところがあります。
経験に基づいていろいろ申しましたが、DEIに関しては私自身もまだ分からないことが本当に多いと感じています。おそらく唯一の正解は存在しないと思いますが、分からないからと放置するのではなく、様々な人の声を聞き、議論を重ねながら、常に問い続けることが重要だと考えています。
──27年秋に新学部・UTokyo College of Design(UT/D)が創設されます。UT/Dの役割をどのように考えますか
PEAK(教養学部英語コース)などで培ってきた成果や経験を生かし、反省すべき点は改めます。完全にゼロから新しいことを始めるわけではありません。その上で、国内からはもちろんのこと、とりわけ国際的に多様な学生を集め、教育の場の国際化を進めるという点で意義のあるプロジェクトだと考えています。
UT/Dの構想が立ち上がった際、ちょうど卓越大への申請の最中でもあったため、「このタイミングで進めるべきなのか」という議論が学内にあったことは確かです。しかし、実施を決定し、募集要項も公表して社会に向けて「やります」と表明しました。東大としては、学生に対してしっかりと責任を持って教育をしなければなりませんし、研究の発展にも循環するように成功させなければならないと考えています。
UT/Dは大学本部の主導で計画され準備されていますが、発足後は一つの部局として教育・研究の現場となります。UT/Dの特徴を東大全体の中で生かすことは、他の部局の力を東大全体のために生かしていくことと同じです。
──大学のガバナンスについてどのように考えますか
企業のガバナンスの考え方を取り入れること自体は、重要だと考えています。私は現在理事・副学長として、学外から来られた理事の方々と一緒に仕事をする機会が多くあります。企業組織におけるガバナンスの捉え方や意思決定のスピード感など、学ばせていただくことが多くあります。参考にすべき点は大いに参考にすべきです。
ただ、大学のガバナンスの難しさは「ステークホルダーが誰なのか」を簡単に特定できない点にあります。東大憲章は「世界の公共性に奉仕する」と掲げていますが、その「世界の公共性」とは何を指すのか。今を生きている人々の利益になればそれで良いかというと、決してそうではありません。学問の成果を将来世代のために残し、社会で不測の事態が起きた際にも対応できるよう知を維持・発展させていく責務があります。
現在に限定しても、個々の研究者や学生、附属病院を利用される方々、連携する企業、一定の距離を保ちつつも政策の学術的基盤を担うべき政府、NPOや地域社会、そして税金を負担してくださっている国民など、ステークホルダーは多岐にわたり、一括りにはできません。
企業であれば、本部の方針に基づいて現場が統一的に動くのに対し、大学では教育・研究の現場ごとに固有の学問分野の論理や教育特性があります。全体方針を本部が示すにしても、個々の教育研究そのものを一つの型に束ね切ることはできませんし、そうすべきでもありません。学外出身の理事の方々とも「まさに大学の難しさはそこにある」と話し合っています。
実際のところ、国立大学法人法が定める組織のあり方は会社法が想定する会社組織とは構造が大きく異なります。企業統治から学ぶべき点は貪欲に学びつつも、大学という組織の特質や教育研究の自律性といった固有の特性を十分に踏まえてガバナンスを設計していく必要があります。
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【総長選考2026】第2次候補・山本隆司候補インタビュー 2026
IUSTITIA.BG – Investigations 2009-2026 2026-09-27 01:20:19
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