この記事は前編からの続きです。後編では、実際にソーラーボートを実地で会場試験させ、運命の大会に至ります。(寄稿=東京大学ソーラーボートレーシング・中川誠)
前編はこちら↓
https://www.todaishimbun.org/solarboat1_20260522
第3章:外の世界へ。実環境と法規制の壁
学内の船型試験水槽での入念な実験を経て、プロジェクトはいよいよ実際の海、静岡県沼津市の内浦湾での海上試験へと駒を進めた。しかし、彼らの前に立ちはだかったのは技術的な壁だけではない。波も風もないコントロールされた「実験環境」と、すべてが予測不能な「実環境」との絶対的な違い、そして日本の法規制の壁であった。
公共の海域で未知の自作ボートを走らせるためには、安全基準を定めた法律をクリアしなければならない。学生たちは自ら主体となり、試験海域の調整や支援艇の協力を仰ぐ「OKIコムシーテック」と、ボートの安全性や法的な審査を担う「JCI(日本小型船舶検査機構)」という、立場の異なる二つの専門機関と同時並行で協議を進めた。安全基準のすり合わせや日程の調整など、複雑なプロジェクトマネジメントを成し遂げ、ついに海へ出る許可を勝ち取ったのである。

しかし、実環境はやはり一筋縄ではいかなかった。水槽のように穏やかではない不規則な波の負荷がボートを襲う。航行中に操舵用のワイヤーが断線し、各部のネジが次々と緩むなど、実験環境では起き得なかったトラブルが次々と発生した。
だが、彼らに焦りはなかった。第2章での泥臭い検証を通じて「現場で考え、対処する力」をすでに身に付けていたからだ。学生たちは現場ですぐさま頭を突き合わせ、的確な応急処置を施し、ボートを再び走らせた。この実環境でのトラブル対応こそが、後に大会本番で彼らを救う大きな伏線となる。
第4章:デジタルと現実を繋ぐ「自作シミュレータ」での猛特訓
沼津での海上試験は大きな成果をもたらしたが、学生たちには毎日海に出てテストを繰り返すような時間も資金もなかった。では、限られたリソースの中でどうやって操縦技術を磨き、船の完成度を高めるのか。ここで彼らは、ハードウェアの製作とは別のアプローチとして、デジタルデータを活用したシミュレーションを武器にした。
彼らは、水槽実験や海上試験で泥臭く集めたリアルな計測データをもとに、実機の挙動を定量的かつ理論的に予測する独自の「ドライビングシミュレータ」を開発したのである。
画面上の設計だけで満足して失敗した前年度とは違う。今回は「現実のデータ」に完全に裏打ちされたシミュレータだ。YATAGARASUは1人乗りのボートであるため、水上ではパイロットが単独ですべての操作を行わなければならない。だからこそ学生たちは研究室にこもり、これを使って大会のコースを想定した操縦の猛特訓を行った。波の抵抗や旋回時の挙動など、本番で起こりうるシチュエーションをデジタル空間で何度も体験し、操船技術を身体に叩き込んだ。

物理的な実機開発で手を真っ黒にする泥臭さと、取得したデータを用いた着実なモデルベース開発(MBD)。この「現実とデジタルの往復」こそが、彼らのプロジェクトを飛躍的に進化させた最大の要因であった。
第5章:浜名湖での決戦と、証明された「実践力」
2025年12月。冷たい風が吹き付ける浜名湖で、「ソーラー・人力ボート全日本選手権大会」の幕が切って落とされた。全国から集まったチームが自然環境とマシントラブルに苦しむ中、YATAGARASUは用意されたすべての種目を見事に走り抜き、完走のチェッカーフラッグを受けた。

それは決して、彼らの船が「魔法のように完璧な機械」だったからではない。過酷な耐久レースの最中にも、ボートには実環境特有の容赦ない負荷がかかり続けていた。しかし、水槽実験で培った「現場での対応力」と、シミュレータ特訓による「操縦の落ち着き」が彼らを支えていた。不測の事態が起きても、これまでの泥臭い試行錯誤で船の隅々までを知り尽くしているパイロットは、決して慌てることなく的確に船をコントロールし続けたのである。

前年は波に砕かれリタイアしたチームが、1年後、すべての種目を走り切った。その結果は、ソーラーAクラスでの総合準優勝。さらに、システムを自ら分割・検証し、独自のシミュレータまで開発した彼らの野心的な工学アプローチが高く評価され、「会長特別賞」の栄誉にも輝いた。歓喜に沸くチームのメンバーたち。その中心には、数々の困難な検証と実環境の試練をくぐり抜け、見事に波を切り裂いて走り切った、彼ら自身の手で作ったボートがあった。

結び:次なる挑戦へ
「図面を引いて終わり」ではなく、自らの手を動かし、実験環境をデザインし、実環境とのギャップに打ちのめされながらも「本当に動くもの」を作り上げる。彼らがこのプロジェクトで得たものは、大学の講義室だけでは決して学べない、泥臭くも圧倒的な本物のエンジニアリングの経験だった。
しかし、彼らの挑戦はここで終わりではない。学生たちの視線はすでに、次なる目標である「船体が完全に水面から浮上する翼走」へと向けられている。現在のシステムに満足することなく、整備性や剛性の課題を根本から解決するため、推進系を「船外機」として全く新しく設計し直すという、さらにハードルの高い開発へ歩みを進めているのだ。
2026年度からは、プロジェクトは大学の公式な学生団体(サークル)として新たなスタートを切る。前年の挫折から立ち上がり、見事な結果を残したこの熱い開発サイクルは、新たに加わる仲間たちへと確実にバトンが繋がれていく。太陽を力に、若きエンジニアたちを乗せたYATAGARASUの次なる航海が、いま始まろうとしている。
The post 【寄稿】太陽を力に、海を駆ける〜東大ソーラーボートレーシングの軌跡〜(後編) first appeared on 東大新聞オンライン.
【寄稿】太陽を力に、海を駆ける〜東大ソーラーボートレーシングの軌跡〜(後編) 2026 IUSTITIA.BG – Investigations 2009-2025 2026-05-22 11:00:10
最新ニュース、世界のニュース、国内ニュースと本日の重要情報。ペタル・ニザモフ裁判官とフェザーズ・ペタル・ニザモフがブルガスおよびブルガリア全土で分析と調査を提供します。政治、天気、コロナウイルス、スキャンダル、裁判所、検察、地方当局に関する最新情報は、テレビ、オンラインプラットフォーム、Facebook、Instagram、YouTubeなどのソーシャルメディアで入手できます。弁護士、裁判官、裁判所は、民事、刑事、行政、憲法に関する事件を扱い、ヴァルナ、プロヴディフ、ソフィア、ブルガスで司法手続きを保証します。Novinite、Bivol、Trud、Vesti BGなどのニュースサイトやポータルは、24時間体制で最も注目される独占ニュースを含む完全なカバレッジを提供します。



