言語を学習する目的は「役に立つから」だけではない。「面白そうだから」という理由で、第二外国語としては開講されていない言語を選び、学ぶ楽しみもある。実際に言語を使う機会が来なくても、日本語とは全く違う文法を学んだり、聞き慣れないけれど美しい発音を聞いてまねするだけでも、教養として外国語を学ぶ意味があるのだ。アラビア語と台湾語の授業を担当している教員2名への取材や記者の体験談を基に、まだ見ぬ言語の世界へ足を踏み入れてみる。(取材・小原優輝)
2026年度Sセメスター 第三外国語科目
中級・初級…第二外国語として開講されている言語全て(イタリア語、韓国朝鮮語、スペイン語、中国語、ドイツ語、フランス語、ロシア語)、アラビア語、インドネシア語、古典ギリシア語、セルビア・クロアチア語、トルコ語、ヒンディー語、ベトナム語、ポルトガル語、ラテン語
初級…広東語、サンスクリット語、タイ語、台湾語、ヘブライ語、ペルシア語、ポーランド語、モンゴル語
その他…古典日本語
※初級は基本的に通年開講だが、一部Aセメスター開始の授業あり。例年通りならAセメスターのみ上海語が開講。
台湾語基本情報
シナ・チベット語族漢語派、系統は閩語(びんご)の中の閩南語(びんなんご)に属する。母語話者数は台湾人の約75%の1700万人。
「方言」と呼ばれることもあるが、中国語とは発音がまったく異なり、語彙や文法にも差があり、相互に通じ合えないため、別の言語と見なす場合もある。一方で、閩南語は福建省南部や東南アジアの一部の華人の間でも話されており、それらと台湾語の相互理解は可能である。17世紀ごろ移住し始めた福建省の人々が台湾に持ち込んだとされる。
台湾で「国語」とされているのは、戦後に中華民国政府が普及させた北京語に近い言語(実際の話し言葉は台湾華語と呼ぶ)であり、現在では台湾華語を主要言語とする人の方が多く、台湾語を話せる若い世代の人は減少している。しかし、政府は台湾語の検定試験を実施するなど保全の取り組みを進めており、2019年に施行した「国家語言発展法」では、台湾華語・台湾語・客家(はっか)語・先住民族語を含めた全ての言語は平等であると位置づけられた。
確立された「標準語」はないが、高雄の方言が規範的と見なされることが多い。表記法はさまざまで、ローマ字(主に「白話字」「台湾語ローマ字方案」の2種類)、漢字、ローマ字と漢字の混ぜ書きなどがある。基本語順はSVOで、語形変化がない「孤立語」に分類される。
あいさつ
Gâu-chá. (ガウツァー 賢早。) おはようございます。
Chia̍h-pá–bōe? (チャッパーブエ 食飽未?) ご飯食べましたか?(あいさつのように使われる)
To-siā. (トーシア 多謝。) ありがとうございます。
Chài-hōe. (ツァイフエ 再會。) さようなら。
多田恵先生にインタビュー
──台湾語の魅力について、発音の面から教えてください
声調(1音節の中での音の上がり下がり)は日本語にはない概念ですが、実は日本語と発音が近い部分もあり、なじみやすい言語だと思います。
基本の母音も、日本語のa,i,u,e,oに一つ足した程度ですし、日本語の言葉が外来語として入ってきているんです。「ハンドル」「ドライバー」「オートバイ」などは、日本人が聞いてそれだと分かるほど音が近いです。
──連続変調については
特定の条件下で音節の声調が別の声調に変わる「連続変調」は台湾語の学習者にとって一つの大きなハードルかもしれません。ですが、ルールはあるものの、例外もあります。例えば、khì(去)「行く」という単語は、ルール通りなら3声から2声に変調するところ、実際は1声のようになります。
ルールだけ覚えるのも良いのですが、どちらかというと現実のフレーズの中で声調の変化を覚えていくのをおすすめしています。
台湾語の変調は中国語に比べて複雑ですが、台湾より北の福州語や、上海語の変調はもっと難しいと思います。このように、上を見れば台湾語は簡単な方ですし、音の高さを楽しむくらいの感覚でいくと良いと思います。

──文法の面ではどうですか
単語の語形変化がない(動詞の活用や名詞の変化がない)ので、意味を表すのに語順が大事になってきます。「て」「に」「を」「は」がなくてもこうすれば意味が伝わる、ということが観察できます。
中国語の語順は「英語に似ている」というイメージがあるかと思いますが、同系統の台湾語は案外英語っぽくなく、自由度が高いです。
英語や中国語では「目的語を動詞の後に置く」語順が基本です。台湾語でも基本的にはそうなのですが、実際の会話では、目的語を文の最初に置いて話すこともあり、そういったところを比べてみると面白いです。
また、台湾で話されている中国語である台湾華語は、大陸の中国語とは文法が違うところがあります。台湾語を知っていると、「ここは台湾語に影響を受けているんだな」と気付けたりします。
──台湾語を学ぶと何ができるようになりますか
台湾は単一言語社会ではありません。近年では、台湾の土地の状況を描いた作品では、全編ではなくても、どこかで必ず台湾語が入ってきます。台湾語を知ることによって、このような状況に気付き、アプローチすることができます。
中国語を勉強する人はたくさんいますが、台湾語で台湾の人たちと接すると、「この人は自分たちの方を向いている」と感じてもらえ、親友や家族のような距離感にまで入り込んでいけるでしょう。
授業を履修していた学生からうれしい報告がありました。当時はまだ総統になっていなかった頼清徳氏に台湾語で話しかけてみたら、笑顔になってくれて、他にも日本人の参加者がいたのに自分にだけ振り向いてくれたと言うのです。台湾語は公共の言葉ではなく、台湾の人たちに「直接」アプローチできる特別な言語です。ですから、中国語で話しかけたときと違った表情を見せてくれるのだと思います。
このように台湾人と深く関われるのに加えて、商品名や広告などで、台湾語をもじったネーミングが出てくることがあり、それを理解することができることも、魅力の一つです。
──半年だけ履修する場合、何を身につけることができますか
半年であっても、異なる仕組みの言語があるという基本的なところを、疑問点を解消しつつしっかりと学ぶことは、今後自分で独学したくなったときの基礎にもなります。一から独学することも可能ではありますが、台湾語の場合、変調などは実際に聞かないと中々実際の発音が見えてこないので、半年だけでも履修することが重要です。
どんな言語でも必ず最初に発音は学びます。「こんな発音があるんだ」と驚くだけでも、異文化の入口に立ったと言えると思います。
──台湾語の授業を通して学生に何を感じて、何を得てほしいですか
一つには、それぞれの言語にそれぞれの仕組みがあって、それぞれの背景には文化があるということです。言語学習を通じて、異なる文化は異なる体系を持っているということを知ることができます。
また、中国語を話す人から見た台湾の歴史と、台湾語を話す人から見たそれは違います。権威を持っていない言語を学ぶことによって、違った視点を持つことができるのではないかと思います。
──台湾語学習を考えている人へのメッセージをお願いします
台湾語は発音さえしっかりやっておけば、あとは理解しやすいですし、発音も思ったより難しくありません。半期だけでもいいので、ぜひ試しに学んでみてください。それだけでも独学できるようになりますので、半期履修したらあとは好きな形でやってみるというのもありです。国家を代表するわけではない言語をやってみるのも、貴重な経験になると思います。

記者の体験談
2024Sセメスターに蔡承維先生(東大非常勤講師)の初級を履修。毎回教員と1対1での会話練習をし、作文課題が1回ある。台湾語の歌や貴重な資料も見せてもらえる。
2024Aセメスターには中級しか開講されなかったため、やむを得ず夏休みに教科書の後半部分を独学し、多田先生の中級を履修。それでも、初級の前半しか履修していない人に配慮してもらえたので、ついていけた。
記者は第二外国語として中国語を2年間、第三外国語として広東語、上海語を各半年間履修した経験があった。そのうえで台湾語を学習してみると、独自の魅力が見えてくる。
発音の面では、連続変調の複雑さや、1つの漢字に読みが複数あることが面白い(しかし大変でもある)。語彙にも独特なものが多数ある。たとえばcha-bó͘「女」は「査某」、chhit-thô「遊ぶ」は「(⿺辶日)迌」、o-ló「褒める」は「呵咾」と書き、漢字を見ただけでは何なのかよく分からないところが味わい深い。
日本語からの借用語もちらほら。chù-siā「注射」iá-kiû「野球」pēⁿ-īⁿ「病院」などは、発音は台湾語だが日本語から漢字を借用したもの(中国語では「打針」「棒球」「醫院」)で、o͘-tó͘-bái「オートバイ」、o͘-bá-sáng「おばさん」などは、発音ごと借用されている。
中国語の方言が好きな人はもちろん、中国語しかやったことがない人であっても、このような違いを比較して楽しめるだろう。中国語を学んだことがなく、ヨーロッパの言語を中心に学んできた人にとっても、「動詞の活用や名詞の変化がなく、時制もない」ことや、声調の存在などから、新鮮な気持ちで学習できるはず。
もちろん、台湾に行く予定がある人にとっては、現地の人と交流する上で武器となろう。「L系列の単位を楽に取れる」だけでは語れない魅力が台湾語にはある。
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まだ見ぬ世界へ 第三外国語を楽しもう 台湾語編 2026 IUSTITIA.BG – Investigations 2009-2025 2026-04-04 02:00:47
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