新たに大学生になる皆さん、合格おめでとうございます。これから始まる学生生活、特に東大での生活には (図)のような「典型的な」モデルがあります。しかしながら、実際には(図)の内容のほかに、サークル・部活動、アルバイト・ インターン、資格試験の勉強、大学のプログラムへの参加、長期休暇での旅行など自分でデザイン可能な余白がたくさんあります。あるいは、留学・休学、起業などを通して、(図)のモデル自体を塗り替えることも可能です。そのそれぞれの可能性の先には、想像できない出会いがあることでしょう。私自身も心躍る経験をしてきました。
一方で数多くの可能性があったからこそ生まれる苦悩も多くありました。修士1年(執筆当時)の私にとって、その苦悩は、進学選択や就職活動などの特定のイベントより、むしろ名もない日常に生じるものでした。すなわち、一人の人間として生き抜かなければならない現実に向き合う恐ろしさです。
本記事は、東大5年目の記者が、東大2年目(執筆当時)の後輩から頼まれて執筆したモノローグです。可能性に満ち、一方で時に残酷かもしれないこれからの生活で、何かヒントになることがあれば幸いです。

5年前の2月末のある夜、私は自室で一人泣いていました。長いこと必死に追い求めていた「正解」を手に入れられなかったことを知ったからです。記述問題がほとんどの東大の一般入試で、わずかな選択問題の一つが英語のリスニングテスト。私の得意科目は英語でした。確かに本番は緊張してしまった、しかしきっと大丈夫だろう。そう思って大学が公開している解答を開き自己採点しました。半分以上バツ。惨敗でした。「正しくない」選択を数多くしてしまった自分が惨めで泣きました。
それだけに、3月10日の喜び、もとい信じられなさはひとしおでした。私にとって「東大生」は、異なる世界の「雲の上の人」。選択問題のような分かりやすい「正しさ」すらもつかめない自分が、東大生になれるわけがないと思っていました。
いつからか自分が東大生だと思えるようになったのは、自分が「雲の上の人」になったからではありません。いうなれば「雲」が虚構だったのです。この世界は絶対的な「正しさ」を身に付けることによって天の上のような崇高さに近づくことができ、その閾値(しきいち)としての「雲」を超えたところで生活している存在が「東大生」である──高校生の私の世界認識は、このようなものでした。しかし、その世界認識が誤っていることは実際の東大生を見ると明らかでした。古典や漢字が好きな人もいれば、マージャンや飲みが好きな人もいて、あるいは恋愛に飢えている人もいる。東大生は、知の仙人ではなく、実にさまざまな方向性を向いており、時に俗っぽくありました。天と地の関係と異なって、東大生が重心を置く方向性は一方向に収束しておらず、その意味で東大生が等しく上に乗り掛かるような「雲」は存在しなかったのです。
せっかく雲の上の東大生を目指して頑張ってきたのに、私は何に乗って生活をすれば良いのだろうか。そのようなアイデンティティーの喪失を感じるようになりました。大学でのさまざまな素晴らしい出会いの中で、みんながそれぞれ異なった価値観や幸せの基準を持つことを思い知るたびに、自分は何を頼りに生きていけば良いのだろうと不安になったのです。
私は大学生になってからも何度か泣きました。個別の理由はさまざまですが、「正しさ」を手に入れられなかった悔しさで泣いたことはありません。むしろ、自分が「正しい」と思っていたよりどころが確かではなかったことに気付いたときの心の不安定さ──例えば、受験勉強のためと言って会えていなかった祖父母が他界したとき、受験勉強という過去の自分の正義が揺らいだ──のために涙が出たのでしょう。要するに、選択問題をマークすれば良いような分かりやすい「正しさ」のみに注意を向け、正しさを定義できないものの大切さを忘れていたことを思い知ったのです。
人生に「方程式はない」とはよく言いますし、解も与えられないのでしょう。しかし、「正しさ」のない人生には正当性が与えられないというわけではありません。私は今、大学院での研究がメインの生活です。しかし研究だけが自分の人生にとって「正しいこと」だと考えるのではなく、副専攻にも挑戦したり、友人や家族と過ごしたりする時間を以前より大切にしたりしています。つまり、絶対的な「正しさ」から離れて生きるための練習を(遅ればせながら?)している最中です。「正しさ」に頼らずとも、自分自身が納得し、日々の暮らしを楽しめるような生活を試みる。そのための勇気と知恵を身に付ける期間が、私にとってのこれまでの大学生活でした。
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模範解答のない学生生活へようこそ ―東大5年目の記者のモノローグ 2026 IUSTITIA.BG – Investigations 2009-2025 2026-04-13 16:00:30
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