【前編はこちら】
学生新聞でも号外だって!?
そうこうしてるうちに、待ち時間の余興タイムが終わり、入学式の本編が始まった。
式辞、式辞、祝辞、祝辞──各界のビッグネームからの祝いの辞が、おごそかに続く。
しかしまあ、エラい人のお話ってのは、昔から苦手だ。それは20年以上前の学生時代から変わらない。というか、新聞記者になってから、むしろ拍車がかかっている気もする。
だって、数千人に向けてのあいさつだよ? 選挙の遊説しかり、国会の所信表明演説しかり、不特定多数に向かった、このテのスピーチは総花的なのがお決まりだ。本音のゴリっとした裏話が聞けるわけじゃない。
やっぱり取材は1 on 1。対面で向かい合ってナンボ、という性分になってしまっているのだ。これもまた、プロ記者の悪いクセである。
それでも帰り道、東大新聞の新米部員として、うれしいことがあった。なんと靖国通りの道ばたで、東大新聞の号外が配られていたのだ! もちろん、紙で。
ふたまわりも年下の先輩、それも編集長が、ニコニコしながら僕に号外を手渡してくれた。その名も「東大新聞ミニ」。

この号外、A4版モノクロのペラ1枚だけど、あなどれない。表だけじゃなく、ちゃんと裏にも記事が掲載されている。
表には、たった今終わったばかりの入学式の速報と写真。本文には、スペシャルゲストとして招かれた中満泉・国連事務次長の祝辞まで載っている。おお、このスピード感、まさに刷りたてほやほやって感じ!
さっきまでテンション低かった僕だが、東大新聞ミニを手にして、すっかりうれしくなってしまった。
どうやって号外を作ったのか先輩部員に聞いたところ、東大新聞の連携プレーの賜物だった。
まず、武道館に張りこんだ記者が取材をして、急ピッチでPCから写真とスピーチの穴埋めを送る。
駒場キャンパスでそれを待ち受けた別のスタッフが、超特急で印刷。
また別のスタッフが自家用車を駆って、武道館まで運んできたのだという。商業紙もびっくり、コンマ1秒を刻むバトンリレーだ。
しかも号外は、午前の学部生バージョンと、午後の院生バージョン、ちゃんと二つの版を発行していた。芸がこまかい。そして裏面は、もうすぐ始まる東大の総長選ネタで予定稿処理をする(事前に記事を準備している)、という手堅さも備えている。
このフットワークの軽さ、若さゆえのエネルギー、おそるべし。
プロ記者が失いかけているものをガツンと見せつけられた気がして、背筋が伸びてしまった。
号外は不要? 令和のロマン
号外って、たかだかペライチかもしれないけれど、やっぱり新聞社にとっては特別中の特別なもの。こんな僕でも、ごくわずかではあるけれど、一面の特ダネやスクープ記事なら書いたことはある。でも、さすがに号外ネタを放ったことは一度もない。
そもそも号外スクープを放った記者というのに、僕はひとりも会ったことがない。そんな黄金の一発をキメたことのある記者なんて、たぶん全体の1%どころか0.1%もいないんじゃないか。
それに号外って、ネタもさることながら、人手やコストだってバカにならない。作るのも骨が折れるし、タダで配るのだから単体では赤字だし、よくよく考えると微妙な存在なのだ。
じゃあそんなもの、なんでわざわざ発行するのって?
もはや紙の号外なんてドン臭い、ネットの配信でよくないかって?
ハイ、おっしゃる通り。ほんとそうです。
たしかにネット時代になってから、号外の役割も意味も、薄れてきているかもしれない。
・・・・・・ただ、そうなんだけど、そればっかりじゃないだよなーと僕は思うのです。
なにも号外にかぎったアレじゃないけど、報道のしごとが、合理性とか経済効率ばっかり優先して、リソースを節約しすぎるのはマズイんじゃないかと思う。
コスパ。節約。省エネ。それもたしかに大事。
だけど、報じる仕事がそっちの方向にばかり突き進んでいったら、肝心なところで肝心なものを報じ損ねるんじゃないか、何か取りこぼすんじゃないか、って気がしてならない。
せっかく記者やるんだから、コスパ度外視だからこその、令和のロマン、というか。
ヒラ記者のこんな私見、しょせん引かれ者の小唄だろって言われたら、ぐうの音も出ないのだけど。
でも、だからこそ「東大新聞ミニ」が、僕にはひときわ輝いてみえたのだ。こんな時代に紙の小舟をこぎ続けるドン・キホーテたち。なんて頼もしいんだろう。
そんなプロ記者の感慨を知ってか知らずか、東大新聞の先輩たちはニコニコと僕に新聞を手渡してくれた。センパイ、かっこいいっス!
最後に。東大の入学式が遅いのは、大学の創立記念日(12日)に合わせているからなんだって。僕はそれを東大新聞の号外で知ったのでした。

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プロ記者、東大新聞に入る。第2話(下) 2026 IUSTITIA.BG – Investigations 2009-2025 2026-07-30 03:01:40
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