東京大学新聞社では、本年度実施の総長選考の候補者全員に対面でのインタビューを申し込んでいます。
本記事では、第2次候補者に選出された、理事でCFO(最高財務責任者)の菅野暁候補へのインタビューを掲載します(取材は9月11日に行いました)。
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──辞退という選択肢もある中で、経営協議会からの推薦を受けたのはなぜですか
前回(2020年)の総長選考であれば、すぐに推薦を辞退していたと思います。しかし、この6年間でインフレが進み、部局への配分さえも減らさざるを得ない財政状況になりました。部局長など執行部に近い方々には、私のCFOとしての仕事が教育研究を持続可能にするための財政基盤の構築だと一定程度理解していただいていると感じていますが、現場の教職員の方々の中には「どのような方針で何をやっているのか」と疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか。より多くの構成員の方に東大が置かれている現状と進むべき方向性の一案を共有したいと思い、推薦を受けました。
しかし、教育研究に携わった経験のない人物が総長になった事例は東大では過去になく、学術と経営の分離が進んでいる米国でさえ学長のほとんどが学術出身であることは事実です。その点では私のような候補者は異端者かもしれません。ただ、国立大学法人化で、総長の役割が「象徴」から「経営」へと移ったこと、学術関連の権限が、総長からプロボストに移譲されたことから、私でも総長を務められると考えました。もちろん、研究・教育の経験があり、法人経営の能力もある方が総長を務めるのが一番ですが、そうした方を日本の大学全体で育成するような仕組みはできていないのが現状です。
──東大の強みはどこにありますか
東大は「総合大学の中の総合大学」であると考えています。文理を問わずどの分野にも翼が広いのが最大の強みです。そのため、一部の分野を切り捨てて、他の分野に資源を回すようなことは絶対にやめた方が良いでしょう。政府が重点支援する17分野だけに資源を集中させず、基礎研究や人文学、社会科学にも安定した財源を確保することが重要だと考えます。教育面では、そうした研究分野の広さに加え、前期の教養教育と、後期の専門教育の2段構えという他大学にはない仕組みが強みだと考えています。
──6年間の総長任期では、どのようなことに注力したいですか
研究・教育の基盤となるのは、財政だけではありません。東大には優秀な職員の方が多くいますが、その能力を十分に生かしきれていないのが課題です。正直言って教員との関係はいびつで、職員の方々も指示待ちになりがちです。この現状を変えるためにも人事制度の改革が必要です。今のように2〜3年ごとに異動があると、職員の方々が専門性を高めることは難しくなります。
例えば、寄付金を集めるためには、企業や個人の方々と関係を築き、大学の研究への理解をいただくことが重要です。しかし現状では、担当が頻繁に変わり、ノウハウも人間関係も生かしきれません。推進中の社会連携も相手企業などのニーズと、東大の持つ知をよく理解し、それをつなぎ合わせられなければ上手くいきません。キャリアパスを明確にし、正当に評価していくことで、職員の方々が主体的に働くことができると考えています。私が務めるCFOの役職も、私のように外部の人材を招かずとも東大内で職員を育成し、ゆくゆくは職員から理事を輩出できる状況が望ましいはずです。教員の方からは、外部資金を取ってくるほど事務処理や書類作成に時間が掛かって自分の首を絞めることになるという課題も聞きました。博士課程修了者など高い専門性を有する職員を増やすことで、研究に集中できる環境を整備することが重要だと考えています。
──数が多く、独立性も高い部局を、総長はどう束ねていくべきだと考えますか
反発があることは承知で、本部と部局の関係を見直していきたいと考えています。具体的には、東大としての方針を決めていく際に信頼感を持って議論できるような対話のシステムを整備していきたいです。今年、米国イェール大学の研究担当理事と話す機会があり、教員人事や資源配分についてどのように議論しているのか尋ねたところ、とにかく議論するというのが同大学のやり方だと教えてもらいました。同大学は人文系が強く、工学系は国内ではやや劣るらしいですが、量子分野に大学として投資するのを決定するまで4年間もかけて議論したそうです。米国の私立大学は理事会などがドライに方針を決めていくイメージがあったのですが、各部局の利害を代弁する学部長ではなく、各学部の中堅研究者を複数人集めて、大学全体の利益の観点から徹底して議論する仕組みが整っていると聞きました。このような制度が本部と部局の間に必要だと考えています。
──藤井総長は「対話」の重視を掲げていました。藤井総長の「対話」についてどう評価していますか
学内での「対話」という点では、藤井総長の下で執行部にいた人間として、2年前の授業料値上げの時の「対話」の進め方は反省すべきものだったと思っています。最初に20%の値上げという数字だけが明らかになり、授業料免除の対象拡大や使途の説明が後追いになってしまったという点で順番に最大の問題がありました。対話の相手としての「学生」の実像を執行部として捉えきれなかったのも問題でした。値上げに反対する運動がある一方で、仕方ないと考える学生もおり、学生全体としての意見をつかみ損ねてしまいました。海外大学のように学生代表を意思決定の場に入れる必要性がありますが、その選出方法についてさらなる検討が求められます。学生以外についても、多様なバックグラウンドや専門性を持った人が、それぞれの役割を意識して意見を持ち寄るチームワークができているかが、経営で最も重要なことだと考えています。
社会との「対話」という点では、引き続き社会連携を進めていきたいです。一部の部局からは、自分たちの分野は寄付金や共同研究などと無関係だと言われることもありますが、実際にはつなげ方次第で、サポートしたいという個人や企業は出てくると思っています。可能性を狭めることなく、教員の負担も考慮して、職員などのサポート体制といったシステムの確立を通して、拡大を推進していきたいです。
──国際卓越研究大学(卓越大)の意義をどのように考えますか
大学の学問の時間軸は民間とは異なると認識しています。社会連携での企業からの支援や、国からの補助金もせいぜい5年程度の期間で、成果が出るまでにより長期的な支援が必要なケースでも途中で打ち切られることもあります。そのような場合に、大学独自の判断で支援を続けられるような体制を構築する基盤として、卓越大による助成金は貴重です。
卓越大への申請の中心的な構想である国際統合研究基盤(GRI)は、全学規模での最適な人員配置と新陳代謝を目指しています。私は教育・研究に携わった経験がないので、研究者をどのように評価するべきか、肌感覚がありません。トップ10%論文などの定量的な評価軸が合うかは分野によって異なり、ましてや教育面での素質をどう評価できるかは機械的に決められるものではないと認識しています。合意形成に当たっては、先ほどの本部と部局の関係性のように徹底した議論を行い、情報公開を含め、このメンバーで議論して決まったならば納得できると思えるような体制を整えたいと考えています。
──藤井総長の6年間をどう評価していますか
UTokyo Compassを読んで共感するところが多くあったことが東大にCFOとして就任した背景の一つです。そのため藤井総長の方針で大きく変えるべきところはないと考えていますが、一方総花的なところがあり、インフレに伴う財源不足でその実現に苦しんだ点が課題でした。CFOを務めてきた経験を生かしつつ、再び伸び始めた運営費交付金や、卓越大に採択された場合にはその助成金を使うことで藤井総長がやり残したことを実現したいと思います。
──DEIについてどのように考えますか
構成員の多様性なくして、多様な研究・教育は生まれません。その点でDEIを進めるのは当然だと考えています。しかし、東大は民間と比べてその推進に遅れを取っているのが現状です。民間では役員候補の女性にメンターを付けて育成するような取り組みがあり、役員となった方が今までとは違った視点をもたらしてくれるなど、成果を上げています。東大でも同様の取り組みをやるべきだと思いますが、そもそも女性教員が少なく、仕事がその方々に集中してしまう課題があるのも悩ましいところです。
留学生の比率を増やすに当たっても、単に定員の30%の留学生を入学させるだけではパンクするだけです。以前は東大の職員を海外の大学にインターンで派遣する制度があったと聞いていますが、おそらく財源などの問題で今はありません。多文化の受け入れは翻訳ツールでは代替できないので、海外経験のある職員を計画的に育てていく必要があります。
──27年秋に新学部・UTokyo College of Design(UT/D)が創設されます。UT/Dの役割をどのように考えますか
学内外で受け止め方が全く違うのが面白いと感じています。学外から来た身としては、経済界が求めるような、複数の専門分野にまたがる幅広い教養を身に付けた人材を育成する構想だと受け取りました。一方、この構想に懐疑的な部局長が多いことも認識しています。学部の段階からいくつもの学問分野に手を出すと、一つ一つの専門性を高められないという批判も確かに正しいと思っています。
しかし、UT/D自体はあくまで1学年100人の実験的存在です。パートナー企業から資金を募る仕組みで、実際に学外からの評価は高く、大学が提供する教育の在り方、あるいはコンテンツとして評価できるので、私としてはサポートしていきたいと思います。ただし、専門性と学際性をどれだけ両立できるかは今後見極めていく必要があります。
──大学のガバナンスについてどのように考えますか
大学や学部の「自治」は非常に大切だと思います。学問は研究者一人一人から成り立っていますから、民間のようなトップダウン方式は相応しくありません。一方で、昨年来の不祥事に象徴されるように、大学の慣行・風土が社会から逸脱している場面も見られます。その点について学外出身の理事として異議を唱え、東大と社会のギャップを埋められたのは良かったです。
教育・研究の経験がない分、学術に関する判断はプロボストに任せることになると思いますが、大学全体に関わる重要事項について、経験がないからという理由で決定に関与しないわけにもいきません。経験がないことは、判断が下せないということではないので、最終判断は総長として責任を持ちたいと考えています。
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【総長選考2026】第2次候補・菅野暁候補インタビュー 2026
IUSTITIA.BG – Investigations 2009-2026 2026-09-22 15:00:30
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