2026年度から法学部・法学政治学研究科で統計分析の入門からリサーチデザイン、因果推論、統計的モデリングをカバーする統計分析・データサイエンスに関する授業科目が体系化された。体系化に至った背景や政治学における計量分析の現在など、体系化に携わった教員にインタビューを行った。後編では勝又裕斗准教授(社会科学研究所)に話を聞いた。(取材・峯﨑皓大)
【前編はこちら】
━━因果推論についての授業を担当するとのことですが、他学部や他研究科が開講している因果推論に関する授業とはどのような違いがあるのでしょうか
因果推論を学ぶ基本の部分は同じです。例えば、教科書は Causal Inference for Statistics, Social, and Biomedical Sciences:An Introduction(邦題:『統計的因果推論』)や Counterfactuals and Causal Inference:Methods and Principles for Social Research (second edition)(邦題:『反実仮想と因果推論』)といった、分野を問わず因果推論を学ぶ標準的なものを指定しています。違いとしては、経済学や公衆衛生とは扱うデータのタイプや特徴に差があると思います。そのため、分野が異なれば同じ手法でも使いやすさが異なります。例えば、政治学ではクロスセクションのサーベイデータやパネルデータ、また近年はサーベイ実験やフィールド実験から得られるデータも増えており、研究目的に合わせた複雑なデザインの実験も増えています。これによって、手法の重要度に多少違いがあります。
━━具体的に政治学ではどのような問題やそれに対応するための手法の開発が行われたのでしょうか
例えばサーベイでは、ある種の質問に対して回答者が「社会的に望ましい回答」をしやすいことが知られており、その傾向に対処して適切な分析を行う方法が研究されてきました。また、実験をする場合に、どのようにすれば現実の政治的な意思決定と同じ状況を再現して意見や行動の変容を知ることができるのか、ということも研究されてきました。
━━勝又准教授は東大で博士号を取得しましたが、勝又准教授が学部や修士課程、博士課程に在籍していた時の東大の政治学の方法論教育はどのようなものでしたか
私は2012年から修士課程、14年から博士課程に進学しました。当時は方法論の体系的な教育がほとんどなかったため、同じ研究科の先輩や後輩と方法論の論文を読む勉強会をほぼ毎週開いていました。一方で、当時学習院大学の福元健太郎先生(現・東京大学)や米マサチューセッツ工科大学の山本鉄平先生(現・早稲田大学)がボランティアや他大学で授業を開講したり、今井耕介先生(現・米ハーバード大学)が大学院で授業を開講してくださったり、大学院教育とは別の形で政治学方法論コミュニティーによる手厚いサポートに大いに助けられました。当時を振り返ると、学びたい人同士のコミュニティーとそれを惜しみなくサポートしてくださる一流研究者に助けられたのが印象的です。今回のデータサイエンス授業の体系化の背景には、東大の中でもコミュニティー作りがしやすくなるように、という思いもあります。
━━新たに体系化された授業では具体的にどのようなことを学べるのでしょうか
大きくは、確率・統計の基礎と線形回帰分析、広義の研究設計と狭義のリサーチデザイン、因果推論、統計モデリングという四つを学ぶことができます。学ぶ順番はさまざまですが、海外の大学院でも標準的な構成です。
━━26年度から早稲田大学政治経済学術院の授業との単位互換の制度も始まりましたが、どのような違いがあ りますか
現在は大学院法学政治学研究科の学生のみが履修できます。内容について大きな違いはないと思いますが、どちらかでしか提供できない,発展的な内容を受講しやすくなったと思います。また、東大では日本語で、早稲田では英語で開講することが多いです。開講学期も異なるので、選択肢を増やすことができたと思います。
━━東大の方法論教育の今後の展望について教えてください
個人的な方針としては、全ての院生や学部生にとって有意義な授業を提供したいと強く思っています。統計学やデータサイエンスに必ずしも強い関心のない学生にも、その面白さと意義を伝えられるようにするにはどうしたら良いか、日々試行錯誤しています。同時に、大学院修了後十年間は役に立つような体系的で専門的な授業を提供したいと思っています。自分自身を顧みて、学習において最も重要なのは学習者自身の自発的な学習意欲だと思うので、単に教科書の内容を覚えさせる授業ではなく、学生自身にもっと学びたいと思ってもらえるような授業を提供したいです。その一つの試みとして、優れた研究をまるごと追体験することを考えています。例えば、Broockman & Kalla (2016, Science)では戸別訪問で異なる視点を共有することでトランスジェンダーに対する偏見を減らせることが分かりました。現実の重要な社会的課題に対して、どんな理論に基づいて仮説を立て、どんなリサーチデザインで検証を行い、どんな推論を行ったのかという研究全体を、一緒に体験します。
━━勝又先生の研究内容について教えてください
最近は、方法論については機械学習を用いた実証分析の手法の開発を行っており、実証分析としては外国人への排外的態度や選挙について研究をしています
━━方法論の研究を志したきっかけは何でしょうか
これまで分からなかったことを分かるようにできるという方法論の力に引かれたからです。また、今井先生や山本先生のように世界的な第一人者として方法論研究を行っている方々に大きく影響を受けたからです。
━━最後に計量的な政治学を志す学生にメッセージをお願いします
学部生については、社会科学を学ぶ人や、意思決定のプロフェッショナルを志す人には今回の科目群をぜひ受講してほしいです。データの収集方法の重要性やデータを意思決定に生かす方法を学ぶことができます。また、全ての院生に受講してほしいです。計量分析を行う研究をしない場合にも、統計学の推論のロジックを理解することで研究における推論についての理解が深まるはずです。専門分野の学習と並行して方法論についても学習し、豊かなコミュニティーを形成していってほしいです。

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社会科学×データサイエンス 担当教員に聞く 法学部におけるデータサイエンス教育【後編】 2026
IUSTITIA.BG – Investigations 2009-2026 2026-10-20 02:00:31
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