6月7日、本郷キャンパスの伊藤国際学術センターホール・多目的スペースにて、「『東大150周年に乾杯!』東大蔵元会 利き酒イベント」が開催された。卒業生など東大関係者の蔵元によって形成された「東大蔵元会」から15の蔵元が参加して来場者に酒を振る舞った本イベント。昨今酒造業界が困難にある中で、本イベントで見えてきたのは東大での学びを酒造につなげる蔵元の奮闘、そして蔵元会の横のつながりの強さだった。(取材・宇城謙人)
トークセッション 新旧酒蔵に見える課題と、酒造りへの熱意
津田敦理事・副学長は冒頭の挨拶で、2027年に東大が創立150周年を迎えることに言及し、東大蔵元会が卒業生としてこの周年イベントを盛り上げようと全面協力してくれたことへの感謝と、赤門修復などの事業について説明、卒業生の力の結集と参加を呼び掛けた。
参加した蔵元
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酒造会社 |
銘柄 |
都道府県 |
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株式会社わしの尾 |
鷲の尾 |
岩手県 |
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新政酒造株式会社 |
新政 |
秋田県 |
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勝花藏株式会社 |
Fermenteria(ファーメンテリア) |
宮城県 |
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金水晶酒造株式会社 |
金水晶 |
福島県 |
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大七酒造株式会社 |
大七 |
福島県 |
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下越酒造株式会社 |
ほまれ麒麟 |
新潟県 |
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津南醸造株式会社 |
GO(郷) |
新潟県 |
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惣誉酒造株式会社 |
惣誉 |
栃木県 |
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西堀酒造株式会社 |
若盛 |
栃木県 |
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武重本家酒造株式会社 |
御園竹 |
長野県 |
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株式会社Linné(りんね) |
800(ヤオ) |
京都府 |
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長龍酒造株式会社 |
長龍 |
奈良県 |
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有限会社高田酒造場 |
瑞泉 |
鳥取県 |
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合名会社梅田酒造場 |
本洲一 |
広島県 |
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株式会社喜多屋 |
喜多屋 |
福岡県 |
津田理事・副学長の挨拶が終わると、参加した蔵元のうち7蔵と玄田有史理事・副学長を交えたパネルトークが開始。玄田理事・副学長の軽妙な語り口のもと、蔵元会の登壇者のトークが繰り広げられる。
最初に口を開いたのは伊澤優花代表(勝花藏)。造り酒屋を実家とする伊澤さんは経済学部を起業中退ののち、海外への清酒の輸出事業を手掛け、実家から独立。現在は「人が行き交うまちなかで酒造りをしたい」という思いのもと、仙台駅のエキナカで醸造所を開設した。
勝花藏の製造する酒は酒類法上で「その他の醸造酒」に分類される「クラフト酒」。副原料を用いるなどしており、米と米麹で作られる「清酒」とは異なる。そのため、清酒の製造元でつくる地元の酒造組合に入れないという事情があった。しかし、25年度より東大蔵元会に加盟し、蔵元との交流が生まれたという。
そんな勝花藏が手掛けるFermenteriaのお酒を飲んだ河野遵社長(惣誉酒造)は「ジャンルを超える素晴らしいお酒で、感激した」という。通常とは異なる方法でのFermenteriaの酒造りから、とても多くのことを学んだとのことだ。
新風を吹き込む伊澤さんに対し、太田七右衛門社長(大七酒造)の言葉には10代目、年にして274年続く造り酒屋としての矜持(きょうじ)が見え隠れする。「蔵に住んでいる生物が命」と語り、新しい蔵にすること自体にも抵抗があるほどだ。しかし、地域の農業の中核部分を成してきた造り酒屋として、近年の農業に押し寄せる高齢化の現状には危機感を抱く。地元・福島県二本松市の「西谷棚田」でも営農者が大幅に減少。耕作放棄地が増え、蔵が中心となって豊かな風景も失われそうになった中で生産回復の取り組みを進め、26枚全ての棚田の復活に成功した。

農業は造り酒屋の現代的課題の一つだが、後継者不足もまた大きな課題だ。喜多屋の木下宏太郎社長は蔵を継ぐつもりで東大に入ったという。きっかけは坂口謹一郎『日本の酒』(岩波書店)を読んだこと。卒業後卒業後は同業大手企業での修行と国税醸造試験所へ出向を経て社長に就任、現在は31歳長女への世代交代を進める。「並走期間」という楽しみ方をし、引き渡し時期は、家庭・子育てとの両立となるので相談中とのこと。
惣誉の河野社長も、木下社長と同世代の造り酒屋として、後継者への世代交代を進めた。その中で良かったのは「酒の味に対する好みが同じ」だったこと。目指す酒の方向性がほぼ同じだと、うれしそうに語る。
このように、蔵元会の酒蔵は現代の一次産業で表出される多様な課題を抱えつつも、それぞれの蔵でそうした課題に対応しながら酒造りの歴史を紡いでいる。そして、蔵元会というネットワークを通し、相互に情報共有や交流を行うことが課題解決の一助となっているそうだ。
利酒会 蔵元の酒に舌鼓を打つ参加者 その裏には酒造りの「思い」
トークセッションのあとは来場者お待ちかねの利酒会。参加した15の蔵からこだわりの酒が提供された。
伊澤社長の勝花藏株式会社が提供するのは「その他の日本酒」という分類の酒。ただし「99.9%清酒に近いもの」が作れると伊澤社長は語り、むしろ「新たな発酵の手法を探れる」という点に可能性を見出す。しかし、新しい業態を作る上で、資本面などでの課題はスタートアップ企業ならではだ。そこで新しい酒蔵のあり方を探る伊澤社長が重視するのは「1人でやるのではなく」「パートナーを探す」こと。実績や実力をそろえる蔵が多く加盟する蔵元会との交流のなかで、自らの酒への助言をもらえたり、イベントに参加することで知名度向上につながることは、大きな影響力があるという。そんな勝花藏株式会社がこの日提供した酒をすべて飲んだという参加者は、山椒や果実の風味が感じられる酒の風味が興味深いと語った。
津南醸造の鈴木健吾代表取締役は大学時代にミドリムシの研究に携わっていた。コメどころ・魚沼にあって「お米を最高な状態でお酒にするには」というテーマに自信を持ちつつも、「新しい文化」を志向し、斬新な商品開発に取り組む。大学時代の学びは一見関係ないのかと思いつつも、現在はミドリムシのエキスを酒母に加えた酒を開発。酵母の発酵に作用して香り高い酒になるという。また、赤ワインの樽で熟成した「清酒の限界」に挑戦した酒も造るチャレンジ精神あふれる酒蔵だ。そこにあるのは、地域の資源に根差しつつも、東大で得られた学びの知見をできる限り酒造りに還元したいという思い。近年は台湾やシンガポール、アメリカへの展開も見据える。
鈴木社長が語るように、海外進出を図る酒蔵は多い。日本食ブームにあわせて需要は拡大しているが、一方で課題も大きい。喜多屋の木下社長は、「こだわりどころではない」並々ならぬ思いを持って酒造りをしているとのこと。1996年からアメリカやアジアを中心に酒の輸出に取り組む。原料米のコストはワインの原料となるブドウと比較して高く、値段競争上での課題があるという。
酒造りの足元を見渡せば、原料米の生産者の確保も課題だ。地元の棚田づくりに取り組む大七酒造の太田社長は棚田を「地域の中で交流し、文化を守っていく」存在だったと語る。一次産業の課題は大きいが、「大七酒造があって良かったと言ってもらえる酒蔵でありたい」という太田社長の声には、地域社会の中心としてたたずむ酒造の決意が垣間見える。これまでは地域で奮闘する蔵があってもお互いの取り組みが見えづらいという課題があったというが、蔵元会で仲間との交流を進め、切磋琢磨することで「楽しいし、刺激を受ける」という点に蔵元会の魅力を感じている。
今回のイベントを運営する東大ディベロップメントオフィスの堺飛鳥さんは「地域や東大に関わるさまざまな人たちの交流が進むと良い」と語る。今回参加した酒蔵の皆さんのように、お互いに助け合い刺激を与え合いながら新たな挑戦を続ける卒業生の存在こそが東京大学の力の源泉であり、大学としても今後、卒業生同士の新たな出会いと交流を生み出す後押しをしていきたいという。利酒会で提供された酒はあっという間になくなり、飽き足りない参加者の顔はほんのりと赤くなっていった。

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東大蔵元会のお酒に乾杯! 酒造りの舞台裏には蔵元会の「つながり」 2026
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