10月7日にノーベル化学賞受賞者の発表が行われ、硤合憲三氏(東京理科大学名誉教授)が受賞した。不斉有機合成における非線形効果と自己触媒作用の発見による受賞。硤合氏は1979年に東大大学院理学系研究科博士課程を修了した。
硤合氏は、生成物自身が触媒として働く不斉自己触媒反応を利用し、ごくわずかに生じた一方の鏡像体の過剰を自発的に増幅して、ほぼ単一の鏡像体のみからなる生成物を得る方法(硤合反応)を発見。生成物自身が触媒となって自分を増やし続けることで、自然界にごくわずかに存在する鏡像分子の存在比の偏りを増幅し、最終的に一方の鏡像体だけを生み出せることを示した反応であり、生物を構成するアミノ酸などの分子が、鏡像体の片方だけの分子に偏っていること(ホモキラリティ)の理由を説明する有力なモデルだ。
それ自身の鏡像と重ね合わせることができない分子の構造を不斉といい、そのような分子をキラルであるという。また、そのような分子の性質をキラリティという。キラリティを持つ鏡像異性体にはL型とD型の2種類が存在する。地球上の生物のタンパク質を構成する天然アミノ酸のほとんどがL型で、DNAを構成するデオキシリボースはすべてがD型など、生体関連有機化合物のキラリティは片方に偏って存在している場合が多く、これをホモキラリティと呼ぶ。生物内で起こる反応において片方の型のみが存在することは、酵素反応の発現やDNAらせん構造において重要な役割を果たすなど、生命活動の維持に必須な役割を果たすとされていた。一方有機化合物のキラリティの起源として注目されていた円偏光や、水晶などのキラル無機結晶が有機化合物にもたらすキラリティの偏りは51:49程度と小さく、それらの関連性は長年にわたり不明だった。
硤合氏は不斉自己触媒反応を用いてホモキラリティの起源の解明に取り組んだ。不斉自己触媒反応はキラルな生成物自身が触媒として作用し、自らと同じ構造のキラル化合物を与え自己増殖する反応のこと。硤合氏はピリミジン-5-カルボアルデヒドに対するジイソプロピル亜鉛の不斉付加反応により生成されるピリミジルアルカノールが不斉自己触媒として作用する反応を使い、反応前のキラリティの偏りがきわめて小さい場合にも偏りの増幅が起こり、最終的にほぼ一方の鏡像異性体のみになることを発見した。鏡像異性体の偏りを増幅するには、他のキラル要因が不要で、不斉自己触媒の不斉の偏りがあれば自己増殖することも明らかとなった。
キラル無機結晶である水晶のうち、どちらか一方の鏡像異性体の水晶のみが存在する環境下でピリミジン-5-カルボアルデヒドとジイソプロピル亜鉛を反応させたところ、生成されたピリミジルアルカノールの不斉が水晶の不斉と対応することが明らかに。水晶が不斉開始剤としてピリミジルアルカノールの鏡像体過剰率にわずかな偏りを持たせることで自己増幅を発生させることが示された。円偏光においても不斉の起源となることを明らかにし、円偏光や水晶の不斉の偏りとホモキラリティを関連付ける結果となった。
この反応は、生命のホモキラリティの起源の解明につながる。それだけでなく、鏡像異性体の中には型によって異なる性質を示すものもあるため、片方の立体構造のみの増幅は創薬への活用も期待されている。
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硤合憲三氏が2026年ノーベル化学賞受賞 不斉有機合成における非線形効果と自己触媒作用の発見による 2026
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