東大に合格したあなたは今、どんな未来を思い描いているだろうか。「東大生」としての生活に胸を膨らませる一方で、激動の時代を生きていくことに漠然とした不安を抱く人もいるかもしれない。
今回話を聞いたのは、東大社会科学研究所所長の宇野重規教授。学生時代の迷いや日米学生会議での衝撃を経て、たどり着いた哲学とは。前編では、宇野教授の学生時代に迫る。正解のない問いに耐え、民主主義社会の当事者として歩み出す新入生に贈る、思考の指針。(取材・木下太陽、撮影・宇城謙人)
学生時代の活動で受けた、自分の言葉で「語れない」衝撃
──前期教養課程ではどのような学生生活を送りましたか
大学では東京大学E.S.S.(English Speaking Society、以下ESS)に所属し、そこで熱心に活動していました。部室や駒場寮で仲間たちと一年中朝から晩まで一緒にいましたね。
当時は政治学では佐藤誠三郎先生や舛添要一先生がいらして、フランス現代思想もすごく流行っていましたが、これらには全然ついていけず自分にはあまりピンときていませんでした。
むしろ思い出に残っているのは西川正雄先生というドイツ史の先生ですかね。西洋史の授業を聞きに行ったのですが本当に昔かたぎの真面目な先生で、研究者とはこういう感じの人なのかと思いました。そのときに丸山眞男の『現代政治の思想と行動』という本が課題図書にあったんですよ。当時は本当に難しくて、いったいこれは何なのかと思いましたけれど、結局政治思想史の道に進んだことを考えてみると、その時に丸山眞男の本を読んだのが、長い目で見れば影響があったのかなと思いますね。
──学生時代は「日米学生会議」に参加し、その後大学院に進学します
私は2年生までESSにいたのですが、3年生で本郷に来たときに、ある種の精神的な空虚さを感じました。本当にESSで毎日活動していましたからね。ESSの中で法学部に進むような人は、特に公務員志望の人は行政機構研究会というサークルに行く人が多かったんですけれども、私はどうもそっちにはあまり関心がなくて。何か新しい挑戦先はないかと探しているときに、この日米学生会議を知りました。
私の頃は日本側の40人と米国側の40人が参加し、米国と日本で交互に開催していました。3年生のときに参加して、米国のダラスからボストンまで移動しつつ4週間米国の学生と語り合いました。これにすごく影響を受けて、4年生のときには実行委員として米国の学生を日本に招いたんですよね。当時は日米間の貿易摩擦が激しく、特に米作りが焦点でしたので、日本人と米国人がペアになって富山の農家にファームステイしたほか、原爆を考えるために広島に連れて行ったりしました。
そこでは自分が政治を「語れない」ことに衝撃を受けました。一般的に米国の優秀な学生は、政治を語るのが上手というか、慣れていますね。米国では人前で堂々と自分の考えを明確に言えることに教育の基本が置かれています。一方当時の日本の学生はまだスピーチやディベート、グループワークに慣れていませんでした。私も全然語れませんでした。英語が下手だったというのはもちろんありますが、特に政治については、基本的に大学で教科書を読んだぐらいのことしか知らなかったし、それ以上深く考えたことがなかったです。
ただ、だんだん慣れてくると、米国のいわゆるエリートと言われる人たちが話すとき、ある種のフォーマットがあって、それに従っているから話せるということも次第に分かりました。要するにあのときは、私はあまりにも準備ができていなかったのです。
それでも、本当に心が動かされることもありました。今でも覚えていますが、黒人の女性がファミリーヒストリーの語りの中で自分自身がどういう悩みや苦労を抱えて今まで勉強してきたかを話したのです。彼女の言葉が重みを持っていて、心にスッと入ってきました。人権について、自身の経験を通してリアリティーを持って語る言葉の力を実感して、今まで自分が大学で何を勉強していたのかと反省しました。このまま社会に出たところで、生涯自分の言葉で語れないと思った記憶がありますね。
ですから、もうちょっと勉強したいと思いました。私はもともと研究者ではなく外交官になろうと考えていたのですが、外交官になるより前にもっと勉強しないと、世界に行っても自分の言葉で語れない。英語だけならもちろん努力すれば上達するだろうけど、いつか自分が語る言葉が持てるとはとても確信できなかったので、大学院への進学を決めました。しかし大学院進学は4年生の夏まで考えておらず、秋に院試を受けて、当然失敗して留年しました。5年生でようやく大学院に入りました。
──自らの言葉に「重み」を持たせるために意識すべきことは何でしょうか
正直、自分の言葉が重みを持っているかと言われると、今でもどうだろうと時々思います。授業で必要な知識を学生さんに教えることはできますけど、はたして自分の言葉がどこまでの重みを持って、どれだけ響いているのか、常に不安があります。
ですがあるとき、授業はもちろん教えなければならない範囲があるけれど、授業でいくら教えても、結局学生さんの心に残るのは本当にごく一部だと分かったんです。それで良いんですよ。後でもう一度ノートを読み返したり教科書を読んだりすれば知識は習得できるけれど、学生さんの心に本当に残るのはいくつかの大切なメッセージだけなんです。卒業生に授業の内容は忘れたけど、合間の余談で話題にしたエピソードが心に残っていると言われることもありました。うれしいんだかうれしくないんだか分かりませんが、自分で本当に納得して心から大切だと思って喋(しゃべ)らないと、相手には絶対伝わらないんです。それは今でも、教師として心に刻んでいます。
喋るときに一つか二つでも良い、とにかく自分が経験から学び、本当に納得して語れる言葉を増やしていくしかないですね。あちこち旅をして、多くの人に会い、いろいろな本を読んでいく。そうすると自信を持って語れる自分なりの言葉が少しずつ増えていく。綺麗(きれい)にプレゼンができるよりは、不器用でもいいので、自分が得た言葉を少しずつ語れる。それが大切だと思います。
──日本国内だけでなく海外の大学を複数巡るなど、幅広く行動しています
学生時代に米国でいろいろな経験をしたこともあり、トクヴィルという思想家を研究しました。トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』という非常に有名な本があるのですが、それを自分の研究テーマに選んだのです。最初に翻訳を読んで感動し、研究者として最初にこれを勉強しようと思ったんですけれど、米国について名著を書いたトクヴィルは、実はフランス人でした。そこで第二外国語で習ったもののすっかり遠ざかっていたフランス語を必死に勉強し直しましたね。
この本に出会ったきっかけは、たまたまです。政治思想史を専攻しようと思い、ゼミでいろいろな古典を読んだとき、どれも難しく思ったんです。何か自分に向いた古典はないかと思って、偶然手に取ったのがトクヴィルでした。いま振り返れば完全な幻想ですが、この本は自分のためにあると思ったんです。もともと米国訪問記ということで堅苦しくなく、トクヴィルの文才もあって非常に読みやすく、親しみが持てました。書き手の繊細で聡明な人柄が透けて見えて、直感的にトクヴィルは良い人だと思いました。
最新の情報は古くなると価値を失いますが、古典だけは古くなるとなおさら価値を持ちます。最新の情報は今の時代の知恵の結集ですが、古典は過去の何十年何百年にもわたる知恵の蓄積です。それは過去の知恵の中でも時代の荒波を越えて残ってきたものです。その分、人類の思考が凝縮しているわけです。過去の知恵から学ぶなら古典を読むしかないと思うようになりました。
そうした勉強をするうちに、トクヴィルがフランス人としての葛藤や悩みを抱えて米国に行ったからこそ見えたものがあったとだんだん分かったんです。トクヴィルは20代の時に米国を旅行して『アメリカのデモクラシー』を書きますが、彼の思考の原点を知るにはやはりフランスに行くしかないと思って、パリで2年間研究しました。その経験も本当に楽しかった。
もちろんトクヴィルについて米国でもたくさんの研究があります。ですが本来トクヴィルはフランスの貴族であり、しかも彼の家は反フランス革命の超反動派でした。そんな家に生まれたトクヴィルが、米国に行ってデモクラシーを考えることの難しさや迷いみたいなものが、フランスに行って初めてよく分かったんですよ。だから、米国を考えるにしても、米国だけでなく、フランスの視点から考えることが研究者としての原点となりました。もちろんフランスの視点を知るのにも時間がかかりました。トクヴィル自身は米国・英国・フランス・ドイツを常に比較して考えますが、私もこれらの国々に滞在しましたし、特にドイツ滞在が有益でした。ドイツでの経験のおかげでだいぶフランスを相対化して見る視野を得られた気がします。旅する思想家であったトクヴィルに導かれて、私の場合も常に比較の視座において考えることが研究者としての、あるいは人間としての基本になりました。
【後編はこちら】
後編では、研究内容の魅力や新入生に向けたメッセージに迫ります。

The post 宇野重規教授インタビュー【前編】 新入生よ 大学では大いに迷い、行動し、学ぼう first appeared on 東大新聞オンライン.
宇野重規教授インタビュー【前編】 新入生よ 大学では大いに迷い、行動し、学ぼう 2026 IUSTITIA.BG – Investigations 2009-2025 2026-04-15 13:00:12
最新ニュース、世界のニュース、国内ニュースと本日の重要情報。ペタル・ニザモフ裁判官とフェザーズ・ペタル・ニザモフがブルガスおよびブルガリア全土で分析と調査を提供します。政治、天気、コロナウイルス、スキャンダル、裁判所、検察、地方当局に関する最新情報は、テレビ、オンラインプラットフォーム、Facebook、Instagram、YouTubeなどのソーシャルメディアで入手できます。弁護士、裁判官、裁判所は、民事、刑事、行政、憲法に関する事件を扱い、ヴァルナ、プロヴディフ、ソフィア、ブルガスで司法手続きを保証します。Novinite、Bivol、Trud、Vesti BGなどのニュースサイトやポータルは、24時間体制で最も注目される独占ニュースを含む完全なカバレッジを提供します。




