本年度から法学部・法学政治学研究科で統計分析・データサイエンスに関する授業科目が体系化された。授業科目は「データサイエンスⅠ〜Ⅳ」の4科目から構成され、それぞれ「入門」「課題の発見と解決」「因果推論」「統計的モデリング」と副題が付いている。最初の2科目では統計分析における考え方やリサーチデザインなど基礎的な内容を習得し、最後の2科目ではその基礎の上に発展的な内容を習得するようになっている。しかし、Ⅰ〜Ⅳを順番に、すべて受講しなければいけないという制約はなく、各人の興味に応じて自由に履修を組むことができる。これらの科目群が体系化に至った背景や政治学における計量分析の現在など、体系化に携わった教員にインタビューを行った。前編では福元健太郎教授(法学政治学研究科)に話を聞いた。(取材・峯﨑皓大)
多様化する分析手法 初学者から学問の最前線へ
──今回、法学部において統計分析・データサイエンスに関する授業科目を開講するに至った経緯や理由について教えてください
近年、データサイエンスを用いて意思決定を下すことは分野を問わず行われており、それができるような人材を法学部でも育てる必要性を感じたからです。もともと 「政治分析方法論Ⅰ」「政治分析方法論Ⅱ」という科目を開講していました。政治を分析する手法は膨大にあるため、これらの2科目4単位では入口を平易なものにすると高度な手法を教えることができず、入口を高度にすると初学者にとって難しすぎる科目になってしまいます。また、最終的にそれらの手法が使えるようになることが目的なので「数学的に分かる」以前に「なぜそのような分析が必要なのか」まで教えるとなると2科目では十分ではありませんでした。社会科学研究所の勝又先生も似たような授業を行っていたので、意図せざる重複があると良くないということで2人で調整をして、今回4科目8単位の統計・データサイエンスに関する授業科目を開講するに至りました。前の科目は法学部と法学政治学研究科向けに開講しながらも、院生が中心で人数は少なかったのですが、今学期から授業が始まった新しい科目では、他学部・他研究科からの学生を含め多くの受講生が履修しています。また、私は政治学を専門にしているので、授業では主に政治に関するデータを使います。他学部・他研究科でも同様の授業はあり、数学的な部分に大きな違いはあまりないと思いますが、経済学にしろ、政治学にしろ分野が違えばデータの「癖」に違いがあります。統計手法の数学的背景やそのモチベーションを学ぶだけでなく、問いからリサーチクエスチョンに落とし込んだり、実際の研究を再分析して追体験をしたりすることができるカリキュラムになっています。この授業を経て、最終的な目標としては論文を読める、書ける、そしてその論文が公刊可能になることを目指しています。
──東大の方法論教育の歴史や日本、世界における統計分析を用いた政治学の研究の現状を教えてください
方法論に関する教育はかつてはほとんど行われていませんでした。1990年代から加藤淳子先生(法学政治学研究科)が、数年前は今井耕介先生(現・米ハーバード大学)が方法論に関する授業を行っていましたが、かつてはほとんどの学生が独学で方法論を勉強していました。日本の政治学は歴史や思想を研究する人が中心的で、近年は若い人を中心に量的な研究を行う研究者も増えてきたものの、少数派という印象です。海外では、米国だけが例外的に量的な研究を行う政治学が主流ですが、欧州では一部の大学を除き、日本と同様です。近年は、米国で博士号を取得し、韓国や中国、シンガポールで研究を行う研究者も増えてきています。
そもそも統計分析を行う政治学は戦後に勃興しました。最初は世論調査などのデータを分析するところから始まり、近年は因果推論(ある要因がある結果を引き起こしたかを推定する分析手法)や実験、テキスト分析など幅広い手法が使われるようになりました。このような量的分析を行う政治学者は2種類存在し、政治を分析す るために計量的な手法を用いるユーザーの政治学者と、政治の癖のあるデータをうまく分析できるような手法を開発するデベロッパーとして研究に携わる政治学者がい ます。Society for Political Methodologyというデベロッパーの集う学会があるのですが、最初は十数人で始まったのが2000年前後に100人を超えました。最初の頃はい わゆる「セミプロ」のような感じで手法の開発をメインで行う研究者は少なかったのですが、だんだん手法の開発を専門に行う研究者が増えるようになったことを反映しています。
──現在は政治学においてどのような分析が中心的に行われているのでしょうか
さまざまな手法が用いられていますが、2000年代以降は因果推論が中心的です。また、サーベイ実験(意識調査に実験的要素を加えたもので、被験者への刺激や情報の提示がどのように被験者の態度や意見に影響を与えるのかを推定する実験)やフィールド実験(投票を促すチラシの配布などを用いて人々に介入を行いその効果を推定する実験)なども近年は注目を与えています。特に 実験研究の嚆矢(こうし)となったGerber & Green (2000)では、選挙前の戸別訪問が投票率を引き上げる効果があるのに対し、電話での投票呼びかけには効果がないということが示され、それ以降さまざまな実験が行われコンジョイント実験のような新たな実験手法も開発されるようになりました。
さまざまな分野をつなぐ統計学 各人の興味に応じて履修を
──福元先生の研究内容について教えてください
私は研究の半分は自然実験というものを行っており、もう半分は方法論の開発を行っています。前者については、因果推論を行うために最も効果的な方法は医療の治験で行われているような実験(ランダム化比較試験)ですが、社会科学の分析ではそのような実験は行えないことがほとんどです。そのため、天気や選挙のタイミング など実際に起こったことを使ってあたかも実験が行われたように見なすことで因果推論を行うというものです。日本の選挙や地方政治を主な対象として研究を行っています。後者については、接合関数というものを研究しています。多少分かりやすくいうと、二つの異なる変化が観測されたときにそれらの確率分布がどのように結びつ いているかを探っています。
──福元教授が量的な手法を用いた政治学を研究しようと思ったきっかけ、特にデベロッパーを志したきっかけを教えてください
もともと国会の研究を行っておりそれまではユーザーでした。当時、自分の行っていた研究の中で使っていた統計ソフトでは解決できない問題(計数時系列)がある ということが分かり、ないのなら作ろうということで統計学を本格的に学ぶことにしました。それが方法論の研究を志したきっかけです。当時留学していたハーバード大学には政治学の統計分析の授業が非常に充実しており、今でもそこでの経験が生きていると感じます。そうした体験が、今回の関連科目を作ろうと思ったきっかけの一つでもあります。大学教育の良さは1、2年で学問の最先端まで到達できるところにあります。学問の歴史を全て追体験する必要はなく、数学的に正しくても今は使われないものを学ぶ必要は必ずしもありません。しかしながら、初学者にとっては何を学ぶべきかが分からないことが頻繁にあり、そのためにも体系化されたカリキュラムというのが非常に重要です。
統計分析を学ぶことで新しいものの見方を学べたり、これまでになかった知見を世の中に提示したりすることができるようになります。また、統計学は政治学に限ら ずさまざまな分野をつなぐことのできる学問です。新しく開講された関連科目では各人が自分のレベルや目標に応じて自由に履修することができるので興味のある学生 に自分の関心に応じて履修してもらえれば幸いです。

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社会科学×データサイエンス 担当教員に聞く 法学部におけるデータサイエンス教育【前編】 2026
IUSTITIA.BG – Investigations 2009-2026 2026-09-08 02:00:48
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