
東京大学新聞社では、本年度実施の総長選考の候補者全員に対面でのインタビューを申し込んでいます。
本記事では、第2次候補者に選出された、執行役・副学長で大学院工学系研究科教授の染谷隆夫候補へのインタビューを掲載します(取材は8月19日の、第2次候補者発表直前に行いました)。
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──辞退という選択肢もある中で、代議員会からの推薦を受けたのはなぜですか
代議員会から推薦していただいたことを、重く受け止めています。東大は、私自身が学生として学び、研究者として育ててもらい、教育研究に携わる機会を与えてもらってきた大学です。現在は執行役・副学長として大学運営にも関わっています。大学を取り巻く環境が大きく変化する中で、東大の将来に対して責任を担う機会をいただいた以上、これまでの教育研究・運営の経験を生かして全学に貢献するべきだと決意し、推薦を受けました。
──東大の強みはどこにありますか
最大の強みは、宇宙から哲学まで、幅広い学術分野と、それを担う優れた学生、研究者、職員が一つの大学に集まっている点にあります。東大が長い時間をかけて培ってきた多様な学術の各分野には世界水準の深い知の蓄積があります。海外のいくつかの大学で活動してきた経験を通じても、東大の学生の基礎学力や研究力の高さを深く実感してきました。工学系研究科長としても、工学の中にすら大きな広がりがあることを実感しました。現代の複合的な社会課題や境界領域の学問に対して、それぞれの専門性を尊重しつつ、分野を越えて知を結集できることこそが、総合大学としての東大の最大の強みであり可能性です。
──6年間の総長任期では、どのようなことに注力したいですか
現在、世界の大学界は混迷の中にありますが、東大は安心して自由に教育研究ができる、世界的に見ても貴重な場です。この場を守り育てるために、社会と構成員からの信頼を基盤とし、全ての構成員が安心して教育、研究、業務、学びに集中できる環境を整えることに全力を尽くします。その上で、教育研究の成果が社会に還元され、生み出されたリソースが再び教育研究基盤へと再投資される、持続的・自律的な好循環の仕組みを確立します。総長として、そのために必要なリソース獲得に汗をかきます。
2001年〜02年の米国での在外研究から帰国後、工学系研究科で独立研究室を立ち上げさせていただき、周囲の支援を得ながら半導体技術を用いた「ロボット用の人工皮膚」の研究に挑戦しました。このように若い時期に自由に挑戦する機会を得られた経験は、その後の研究の原点になりました。とりわけ、若手研究者の早期独立と挑戦への支援、世界から優れた人材が集まる環境の整備、そして文理を問わない全学的な教育研究基盤の強化に注力し、将来にわたって東大が知の創造を牽引し続けられる強固な基盤を6年間で築きます。それができれば、東大が東大らしさを保ったまま、世界の学生、研究者、産業界から、世界で十本の指に数えられる「存在感のある大学」だと認められ続けると信じています。
──数が多く、独立性も高い部局を、総長はどう束ねていくべきだと考えますか
東大の力の源泉は、各部局が持つ高度な専門性と自律性、そして、それが創り出す学問の多様性にあります。総長の役割は、部局を一律に統制することではなく、部局がその力を最大限に発揮できる環境を支えることです。私自身、工学系研究科長として現場を預かった経験からも、教育研究を守り抜くのは最終的に現場の判断であることを痛感してきました。教育研究の本質を最も深く理解している現場の裁量と判断を最大限に尊重します。その上で、法務、契約、安全、リスク管理、情報基盤など、高度な専門性を要する横断的な課題や制度的リスクは本部が引き受け、現場が本来の教育研究に専念できるよう支えます。
本部と部局の役割分担は、より明確にする必要があります。専門性や学術の多様性については、基本的に各部局の意向と判断を尊重すべきです。一方、専門的な知識を要するさまざまな機能について、全学で共通化できるものは全学が担うことで、部局の活動を支える専門機能を高めることができます。
ただし、共通化とは、全学の一律の基準を部局に押し付けることではありません。それぞれの部局が大切にしていることや、専門性の高い事柄については、部局の判断が尊重される必要があります。多様な学術を担うのは各部局であるという前提に立ち、共通化できる支援機能を全学が担う。その役割分担を明確にすることが重要だと考えています。
全学的な理念や方向性について十分に対話を重ねながら、各部局の特色が生かされる協働型の大学運営を進めます。
──藤井総長は「対話」の重視を掲げていました。藤井総長の「対話」についてどう評価していますか
多様な専門性や価値観を持つ構成員が集まる総合大学で、対話を大学運営の柱に据えられたことには大きな意義があり、今後も大切に引き継ぐべき基盤です。その上で、対話を総長個人の努力に委ねるのではなく、大学の仕組みとして支える段階に来ていると考えています。変化の速度が増し、判断を要する難しい課題が次々と生じる時代には、課題が起きてから対話を始めれば、限られた時間の中でどうしても説明が中心にならざるを得ません。施策の骨格を決める前の日常的な対話──部局やそれぞれの学問分野が何を大切にしておられるかを、平時から伺っておくこと──の重要性が増します。相互理解が先にあれば、いざというときの判断はかえって速くなります。速さと納得は、対立するものではありません。あわせて、対話の担い手を総長一人に集中させず、理事・副学長、部局長、そして現場の教職員がそれぞれの持ち場で対話を担う、分散協調型の運営へと発展させたいと考えています。総長はその結節点であり、最終的な責任を負う立場です。藤井総長が根付かせてくださった対話の文化を、変化の激しい時代に耐える形へと引き継いでいくことが、大切だと考えています。
──国際卓越研究大学(卓越大)の意義をどのように考えますか
日本の大学が世界最高水準の教育研究を持続的に展開していく上で、極めて重要な機会であると受け止めています。認定されれば、長期的・安定的な研究投資、若手研究者の自立支援、世界水準の研究環境と待遇、国際的な人材循環の確立に向けた大きな後押しとなります。制度への採否にかかわらず、本質的に重要なのは東大自身の教育研究力をいかに高め、自律的で持続可能な経営基盤を確立できるかです。そして、その効果を一部にとどめることなく、現在の東大を支えている全構成員の教育研究環境の底上げへと確実につなげていくことが重要だと考えています。
──藤井総長の6年間をどう評価していますか
ダイバーシティの推進、若手研究者への支援、国際卓越研究大学への挑戦、産学協創の加速、スタートアップ創出など、激動する時代の中で東京大学の将来を見据えた重要な取り組みを進められた6年間であったと評価しています。
6年前の時点でも社会の変化は非常に加速していましたが、その速度は現在、さらに増していると感じています。社会の変化に応じて、大学が変わらなければならない部分はあります。一方で、新しい知を生み出し、社会の変化を先導する人材を育て、生み出した知によって社会に新たな選択肢を示すという大学の基本的な役割は変わっていません。むしろ、その重要性は増していると考えています。
感染症危機をはじめとする未曾有の環境変化の中で、教育研究活動を維持しつつ新たな方向性を切り拓いてこられた功績は大きいです。私自身も執行部の一員として共に歩んできた経験を踏まえ、培われた成果と基盤を大切に引き継ぎながら、大学のさらなる発展へとつなげていきます。
──DEIについてどのように考えますか
世界90カ国出身の1.5万人の会員を擁する米国材料学会(MRS)の会長にアジアから初めて選挙で選ばれ、極めて多様性の高い組織の経営を経験しました。そこで、多様な背景、経験、視点を持つ人々が、その能力を存分に発揮できる環境を整えることは、大学の教育研究力を高めるための不可欠な基盤だと感じました。
DEIの基本は、それぞれの構成員や学生が、自らの持つポテンシャルを最大限に発揮できるようにすることだと考えています。例えば、若手研究者にとって、研究者として大きく伸びる時期と子育ての時期が重なることがあります。また、障害のある方を含め、一人ひとりにそれぞれ異なる事情があります。そうした事情があっても最大のパフォーマンスを発揮できる環境があってこそ、異なる学術的専門性、経験、視点を持つ人々が集まり、互いに刺激し合って、新しい知を生み出すことができます。
MRSの運営を通じて学んだのは、研究者の側だけでなく、研究を支える側にも多様な人材が必要だということです。さまざまな専門性を持つ支援人材が互いに考えを刺激し合うことによって、研究者を支える、より良い組織が生まれます。研究する側と支える側の双方に多様性が必要だと実感しました。
ジェンダー、国籍、世代、障害の有無などにかかわらず、誰もが安心して学び、働き、研究できるインクルーシブなキャンパスづくりを進めます。単なる形式的な数値目標にとどめるのではなく、入試、大学院、若手研究者、キャリア形成の各段階における障壁を丁寧に見極め、子育てや介護との両立支援や制度的改善を具体的に進めることが肝要です。多様な知と価値観が響き合い、新しい学術と社会変革を生み出す原動力となるDEIを推進します。
──27年秋に新学部・UTokyo College of Design(UT/D)が創設されます。UT/Dの役割をどのように考えますか
学生自身が立てる問いとそれに基づく学びの選択を重視し「デザイン指向」の発想を取り入れた、新しい教育の可能性を切り開く取り組みは、変化が激しく正解のない時代において極めて意義深いものだと期待しています。地球規模の課題や急速な技術革新に対し、文理を横断しながら自ら問いを立て、多様な人々と協働して解を導くリーダーの育成は急務です。私は、工学と医学の境界で研究を進め、また哲学者との対話の中から新しい問いが生まれる経験を重ねてきました。既存の学部・研究科が持つ深い専門知とUT/Dの実践的・横断的な学びが互いに刺激し合い、その成果が全学の教育へも好循環をもたらす、東京大学の総合力を体現する新しい教育モデルとして発展することを期待しています。
──大学のガバナンスについてどのように考えますか
ガバナンスの本来の目的は、現場を一律に統制・制約することではなく、透明性、公正性、説明責任を確保し、構成員が安心して教育研究や業務に集中できる環境をつくることにあります。法務、契約、安全、コンプライアンスなど横断的で、高度な専門性を要する課題について、大学本部が組織として適切にリスクを引き受け、支援体制を整えることが不可欠です。重要な判断の基準と根拠を公明正大に示し、総長が最終的な責任を果たすガバナンスを確立することこそが、構成員一人ひとりの学問の自由を守り抜き、その潜在力を最大限に引き出すための確かな基盤になると考えています。
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【総長選考2026】第2次候補・染谷隆夫候補インタビュー 2026
IUSTITIA.BG – Investigations 2009-2026 2026-09-03 08:00:39
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