建築家として多くの建築を手掛け、東大では教育・研究とともにキャンパス計画室でキャンパス内の安田講堂の改修や、現在進行中の赤門周辺の整備など多くのプロジェクトに関わっている千葉学名誉教授。建具の研究や小さなモビリティーから考える都市の構想など、そのスケールはただの建築にとどまらない。昨年度末に東大を退職した千葉名誉教授に、後編では、建具やモビリティの研究、東大のキャンパス計画について聞いた。(取材・山本桃歌 写真・図表は千葉名誉教授提供)
前編はこちら
自転車、建具…「ひと」のスケールから空間をデザイン
──自転車をはじめとする小さなモビリティーについての都市に対する提案もしています。中でも大きな道路で自転車専用道路を道路の中央に設けるのは斬新だと感じました
自転車が趣味なのですが、日本では自転車が交通弱者に近いような位置付けであることに対して憤りと疑問を感じていました。欧州では自転車が重要な交通手段として位置付けられインフラも整備されているのに対し、日本のインフラは自動車中心で作られています。日本の都市空間には共用のサービスヤードのような場所がなく、バスの乗降も、ゴミ回収も、荷物の積み下ろしも全て路肩で行われています。そこに自転車の通行も加わると、自転車と自動車の双方にとって危険です。事務所で議論を重ねた結果、交通量やタクシー利用が多い道路では自転車道を車道の中央に置くことが、自動車と自転車、双方にとって安全な通行環境になるのではないか、という結論に至りました。もちろん全ての道路に適用できるものではなく、この方法は都心から放射状に広がる道路には有効だと考えています。道路状況に応じた提案のあり方があってしかるべきだと思いますね。

コルビュジエは車を輝かしい未来を象徴する乗り物と捉えていました。しかし現在では車に対してそのような思いを抱いている人は少ない。逆に現在では自転車だけでなく、LUUPなどの小さなモビリティーの需要が高まっています。20世紀的な高速大量移動ではなく、小さな移動に価値を見出している人が増えているのだと思います。だからこそ小さなモビリティーから未来の都市や建築のあり方を描く必要があると思います。現在の道路や駐車場も、未来には遺産になってしまい、別の使い方が模索されることもあり得ます。建築家として、未来の都市を構想することは、大切なことだと考えています。
──研究室ではどのような研究をしていましたか
研究室では、答えが分からないけれども考えておくべきテーマを研究していました。その中の一つが「東京100Maps」です。東京のさまざまな街の特徴や歴史を読み解きながら、その様子を地図に起こしていきます。現在、東京の街では古い建築がどんどん壊されています。建築にはいろいろな歴史が積み重なっているのに、再開発こそが未来だとする風潮に疑問を持っていて、街を観察する目を養うことが必要なのではないかと考えました。そこで、街を読み取っていくことで東京固有の秩序を見つけ、都市の文脈を視覚化、言語化するために行ったプロジェクトです。

もう一つ、窓や建具の研究も行っていました。昔の日本の建築には建具の種類がたくさんありましたが、現在では少なくなっています。例えば、かつては格子で家の内部と通りや、人と人との関係をコントロールしていました。しかし今ではセキュリティーやプライバシーの観点から建具が内部と外部を遮断するようになり、人と人との関係を貧しくしています。それにより、隣近所との関係も希薄化し、人の目が届かないようになったことでセキュリティーが逆に脆弱化するという悪循環を生んでいます。このような状況で、かつての建具を復活させるのではなく、今の時代に必要な建具をもう一度作り直すことが必要だと考えています。ゴールが見えない問いを立て、その答えを学生に教えるのではなく、一緒に考えていくことは面白く刺激的でしたし、楽しかったです。
歴史ある東大のキャンパスを未来へ
──2000年には東大のキャンパス計画室のメンバーとなります。大学内での設計で意識したことは
東大の構内であっても、街の文脈や地域の特性について理解し、歴史や秩序にどう応えていくか、という点は他の建築と変わりません。しかし、内田祥三先生の建築群に対して手を入れることに対する判断は格段にシビアになりますね。例えばバリアフリーのためのスロープのような小さな改変も、内田先生の建築の主階は地面から半階上がっているのが大きな特徴なので、入り口のたたずまいを根本的に変えるくらい大きな判断になるわけです。そのため検討は、繰り返し行いました。
力を注いだプロジェクトは、安田講堂の改修や目白台インターナショナル・ ビレッジ、駒場Iキャンパスの第2体育館などたくさんありますが、特に印象に残っているのは工学部新3号館です。キャンパス計画室では、基本設計と実施設計段階で提案に対して意見を交わしますが、工学系の研究施設は実験設備も必須で必要な面積も大きい。設計事務所の提案は、それを素直に形にしたもので、ガラスのカーテンウォールの大きな高層棟が、安田講堂側に大きく迫り出すものでした。キャンパスの景観を損ねる懸念もあったため、ゼロから設計を見直すようお願いしました。今ある柔らかい有孔折板の高層棟の考え方は、今後起こり得る設備更新なども視野に入れたものですが、この時に考えたアイデアです。
──現在、赤門周辺の整備計画が始まっています
正門から安田講堂に続く道は御影石(みかげいし)で銀杏並木もきれいに整備されているのに対し、赤門周辺は観光客が多く訪れるにもかかわらず舗装はアスファルトで人々が滞在できる場所も無い。その上来訪者が使えるトイレが無いなどの課題があります。さらに、赤門の耐震性に問題があることや守衛所が現状の建築基準法に不適合だったこともあり、赤門周辺を整備するプロジェクトが始まりました。公衆トイレの案は学生コンペで募り、いざ工事を始めようという段階で加賀藩邸時代の遺構が発見されました。しかもその遺構の状態がかなり良く、これを保存しながら展示する案も浮上しました。現在は構想段階ですが、赤門横のコミュニケーションセンターがある場所で遺構に関する展示を行ったり、プロジェクトに寄付をしてくださった人が集ったり、いろいろなことができそうだと考えています。プロジェクトの進捗は、寄付がどれくらい集まるかによりますが、2027年の東大150周年に向けて整備が進んでいるところです。
──キャンパス計画室での活動の根底にある思いは
愛校心ですね。東大のキャンパスが素晴らしい、ここで学びたいと思って東大に入った面もあるので、一生懸命に取り組んだのですが、支えは愛校心だけなんです。一方、歴史を振り返ると、現在の本郷キャンパスがこのような素晴らしい環境で残っていることは奇跡の連続だとも思います。終戦時に本郷キャンパスがGHQに占領されなかったのは当時の総長である内田祥三先生の強い意思の賜物ですし、1970年代の、手狭になった本郷キャンパスから立川に移転しようという動きを阻止したのは香山先生や稲垣先生など、建築の先生方でした。下手したら本郷には何も残っていなかったかもしれないし、内田先生の建物はどんどん壊されて現代的な建物で埋め尽くされていたかもしれない。今ある状態で維持されているのは、その時々にこのキャンパスを大切に使い続けようと声を上げ、そのために地道な努力を続けていらした先生方のおかげだと思います。未来のキャンパスはこうあるべきだというビジョンをキャンパス計画室で議論し、要綱化し、そして実践を継続してきた延長上にあると思います。新しい研究施設だけが必ずしも良いわけではなく、時間の蓄積は、大学という教育研究の場にとって、とても大事なことではないかと思います。
──学生に向けたメッセージをお願いします
次の時代に何が大切になるのかをイメージしながら、簡単に答えの出ない問いに取り組んでほしいですね。現代では情報が一つの重要なテーマです。しかし、たくさんの情報があることが的確な判断につながるとは限らないし、そもそも世界は、情報化するのが困難なほどに豊かです。ですから情報だけが世界のすべてだとは思わず、情報になっていないこと、価値付けが困難なことにも積極的に取り組んでほしいと思います。
──今後の展望を教えてください
一つでも多くの良い建物をつくっていきたいですね。自分が手掛けた建築が日本の町や皆さんの生活や日々の活力につながっていくといいなと思います。また、大学時代にやり残したこととして、研究を本にまとめているのですが、これも完成させたいです。

The post 建具からランドスケープまで 多角的に建築を考える 千葉学・名誉教授退職記念インタビュー【後編】 first appeared on 東大新聞オンライン.
建具からランドスケープまで 多角的に建築を考える 千葉学・名誉教授退職記念インタビュー【後編】 2026
IUSTITIA.BG – Investigations 2009-2026 2026-09-06 02:00:07
最新ニュース、世界のニュース、国内ニュースと本日の重要情報。ペタル・ニザモフ裁判官とフェザーズ・ペタル・ニザモフがブルガスおよびブルガリア全土で分析と調査を提供します。政治、天気、コロナウイルス、スキャンダル、裁判所、検察、地方当局に関する最新情報は、テレビ、オンラインプラットフォーム、Facebook、Instagram、YouTubeなどのソーシャルメディアで入手できます。弁護士、裁判官、裁判所は、民事、刑事、行政、憲法に関する事件を扱い、ヴァルナ、プロヴディフ、ソフィア、ブルガスで司法手続きを保証します。Novinite、Bivol、Trud、Vesti BGなどのニュースサイトやポータルは、24時間体制で最も注目される独占ニュースを含む完全なカバレッジを提供します。



