近年で急速な発展を見せた AI は、多くの疑問を一瞬で解消し、また瞬時に多くの知識を使用者に与えることができるようになった。
人間にしかできない発想が重視される中で、「AI にもできること」の実質的価値は低くなりつつある。
「覚えている」こと自体の意義が問われる昨今において、Google を退社後、記憶の定着を支援するアプリ「Monoxer」を提供するモノグサ株式会社を起業した畔柳圭佑さんに、東大受験の軌跡や在学中の自身の興味関心、事業設立に至るまでの道のり、AI 時代に問われる暗記の意義について話を聞いた。(取材・岩本和啓、写真は全て畔柳圭佑さん提供)
見つけた「好き」をモチベーションに
──東大を受験した理由を教えてください
進学選択制度の存在は大きかったです。中学生の頃からプログラミングに関心があったと同時に、エネルギーや原子力にも興味を持っていたため、専攻を決めるまでの猶予が得られる点が魅力でした。後期課程で情報科学の分野に進んだのも、高校で既に決めていたわけではなく、大学進学後にさまざまな経験を通して考えた結果です。当時から研究方面に進むことも考えていたので、東大の持つ質の高い環境も意識していました。
──得意教科と苦手教科の勉強方法は
得意教科は数学です。予備校には行っておらず、学校で出された宿題や東大の過去問を中心に勉強していました。好きだったこともあり、自宅学習の時間も多かったです。問題が解けなかった際には解説を読んで、解き方を理解するようにしていました。
苦手教科は英語です。「記憶」の会社を経営していますが、当時は英単語を覚えるのが苦手で、取り組むことへのモチベーションがあまり湧きませんでした。東大の2次試験はたとえ英語の点数が低くとも、他教科でカバーすれば受かり得る配点だったので、他教科で補うという戦略をとっていました。
──勉強へのモチベーションをどう保っていましたか
数学は好きな教科だったので、自然とモチベーションが湧いて勉強しようという気持ちになっていました。勉強に取り組めるようになるためには、第一に好きであることが大切だと思います。初めは他者にやらされていることでも、好きになれるものはあると思います。好きになれそうだと思ったら、その気持ちを大切にして育てていくことが重要です。
また、たとえ嫌いなことであっても、ひとまず始めさえすれば意外と手が進みます。いずれにしても、始めるハードルをなるべく下げるような工夫をすることが大切です。
息抜きとしては趣味のプログラミングをすることが多かったです。ブラウザでできるゲームを公開して多くの人に見てもらえるというのはモチベーションに大きく貢献していました。今やっている仕事につながっている部分も多いと思います。
──受験期のスケジュールは
私は朝に大変弱く、いつも遅刻ギリギリの時間に起きて大急ぎで登校していました。なので、学校のある日の勉強は夕方以降の対策講座が主です。今でも、朝の時間に自習をしたり、部活動をしたりしている人には尊敬の念を抱きますね。放課後の時間に開講されていた対策講座には、楽しいものもあればつらいものもありましたが、なるべく出席していました。夏休みのような長期休暇中でも3年生のための講座には出ていたと思います。
家に帰って夕飯を食べた後は、好きだった数学の勉強やプログラミングをする時間でした。勉強する場所は学校と家で半々くらいですが、数学は主に家で勉強していた時間が長かったと思います。学校以外の時間では、これといったスケジュールは決めず、1日の中で勉強する必要のある教科に使うことのできる余白を作っていました。
その方法で柔軟な勉強ができた一方で、スケジュールを決めることは苦手教科に取り組むきっかけにもなります。厳格なスケジュールが合うかどうかは人によりますが、今思うともう少し決めていても良かったかもしれないですね。
休日に頑張って勉強をした記憶はあまりありません。心と体を休める日と決めて、いつもより長く睡眠を取ったり、プログラミングやゲームをしたりしていました。仕事でも週5日働いた後は2日休むので、休憩の日を取ることは悪いことではないと思います。
体力的な観点だけでなく、勉強で得た知識を定着させるという点でも休む日はあったほうが良いです。記憶する上で一定の時間をおくことは非常に重要な部分なので、しっかりと休むことも勉強のうちだと思います。仮に休日を使って勉強をするとしても、嫌いな教科ではなく好きな教科を勉強していました。
──センター試験と2次試験の勉強配分は
高3の夏休みはほとんど2次試験の対策に費やしていたと思います。あまりセンター試験の対策を家や個人でやった記憶はなく、学校で行われた対策に参加することで補っていました。多少の差が出るとはいえ、東大はセンター試験よりも2次試験の点数配分が大きかったので、2次試験を重視していたという理由が大きいですね。問題自体も2次試験の問題の方が解き応えのあるものが多く、モチベーションにもつながりやすかったです。
──学習には何を使っていましたか
少なくとも夏休みには過去問を使った勉強を始めていました。まず解いてみて、答え合わせをした後は、解答に至るまでの思考法を意識しながら解説を読みます。一度解いた後に1週間ほど時間をおいて、少し忘れてきたタイミングでもう一度解くことによって、自身の定着度を測っていました。
少なくとも2回は同じ問題を解くことを一つのサイクルとして、過去問に取り組んでいたと思います。参考書で勉強しようとすると必然的に解かなければならない問題が多くなってしまいモチベーションが下がります。なるべく効率的に勉強を進めようと考えたときに、過去問ベースで演習を進めるという方法にたどり着きました。自分に合ったスタイルだったと思います。
──2次試験直前はどう過ごしていましたか
なるべく休むようにしていた、という表現が近いです。試験に万全の状態で挑むことが最優先でしたし、勉強には主に過去問を用いていたため、直前に解いた問題に本番で引っ張られてしまうことも気にしていました。本番に集中しよう、という心構えだったと思います。
受験期と直前で過ごし方を大きく変える、ということはしませんでした。私の場合は状態を整えるためにしっかりと休むという選択を取りましたが、人によってはたくさん問題を解く方が整うこともあると思います。自分に合った整え方を用意しておくことが大切です。
「未知」を学んだ大学院時代
──後期課程で情報科学を専攻に決めた理由は
一番大きな理由は、もともとこの領域に関心があったからです。中学生の頃からプログラミングをしてきて、好きな分野をもっとやってみたいと思いました。自分の学びを広げやすいという点で東大の制度は良いです。前期教養課程では授業を柔軟に取れるため、自由な時間を作りやすい。空けた時間を使って行ったインターンで自身のプログラミングスキルを役立てられたことは、良い経験だったと思います。
インターンを通して多くの企業を見学することができるのは大学生の特権です。一定の授業料で学びたい分野の授業を好きなだけ受けることもできれば、授業以外の活動に時間を割くこともできるというのは大学の素晴らしいところだと思います。
別の理由としては、進学しやすい分野だったということも挙げられます。今とは異なり、当時の理学部情報科学科は前年度に定員割れを起こすほど進学しやすい学科でした。実は、前期教養課程では多くの時間をベンチャー企業へのインターンに費やしていたために、私の点数はあまり高くなかったので、進学に必要な点数も考慮に入れる必要がありました。興味関心や進学のしやすさといった複数の観点から、情報科学科が一番良いと考えました。
──大学院に進学した理由は
そこまで強い思いがあって進学したわけではないです。4年生で就職活動をすることの大変さや、同じ学部の人も多く進学していたことから進学を決めました。必ず行かなければならない場所ではないので、大学院に行くことを気負って考える必要はないと思います。 大学院の面白いところは、やはりさまざまな研究の入り口を体験することができるところです。大学院まで行かないとなかなか経験できないような、論文を書いて学会で発表するまでの一連の流れを、サポートしてもらいながら学ぶことができます。
また、5カ月ほどフランスの研究所に行った際には、日本とは全く異なる環境に身を置くという経験をさせてもらえました。さまざまな国の人、さまざまな環境の人と協働して何かをするというのは、大学院だからこそ気軽・手軽にできることだと思います。例えば、フランスで迷った際に、案内所であっても英語で話しかけると全く答えてくれない。でも、頑張って拙くてもフランス語で聞くと、とても丁寧に教えてくれた。こういったところも含めて、いろいろな世界を知ることができます。
【後編はこちら】
畔柳圭佑(くろやなぎ けいすけ)さん/ 13 年に東大大学院情報理工学系研究科を修了後、グーグル株式会社(当時)に入社。16 年に高校の同級生である竹内孝太朗氏とともにモノグサ株式会社を立ち上げる。著書に『記憶はスキル 科学的研究でわかった ! 人生が 10 倍楽しくなる記憶のルール』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
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変化する時代に、変わらぬ「知識」の価値 モノグサ株式会社CTO 畔柳圭佑さんインタビュー【前編】 2026
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