ダイアログ・イン・ザ・ダークは1988年、ドイツの哲学博士であるアンドレアス・ハイネッケの発案から生まれた。日本では99年に初開催され、これまで30万人以上が体験した。純度100%の暗闇で参加者は何を感じるのか。ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンのファウンダーである志村真介さんに話を聞いた。(取材・宇城謙人、丹羽美貴)
<ダイアログ・イン・ザ・ダーク 前編記事はこちらから>
全身で暗闇を楽しんで 感じる対話の魅力
「例えばみなさんにしても東大生の~~さん、と呼ばれることがあるでしょう」。おもむろに志村さんは切り出した。「人を表すときは、その人を説明するために社会的な立場などの枕詞がどうしても付いてしまうんですよね。本当の対話をするためにはまずその枕詞をリセットするところから始めなくてはなりません」。体験中は「照度ゼロ」の真っ暗闇の中で右も左も分からぬ中、白杖から伝わる地面の感触と力強く地を踏む足裏の感覚、そしてアテンドスタッフ(体験者をリードしてくれるガイド役)と参加者同士の声を頼りに歩みを進めていく。志村さんは全身で暗闇を感じることに意味を見出している。「普段は会社員にしても、大学生にしても頭を使い過ぎているように思います。五感が本来備わっているのに、どうしても目や頭で感じたことが生活の中心になります。そのような日常から少し離れて、足の裏から伝わる感覚を研ぎ澄ませたり、耳を澄ませたりして、楽しみながら体験してもらえるとうれしいですね」と力を込める。
暗闇をアテンドしてくれるのは視覚障害のあるスタッフだ。部屋から次第に明かりが消え、今までに体験したことのない暗闇にいざなわれる。目の前にかざした手のひらさえも見えないほどに暗い。今までに体験したことのない暗闇に誘われた参加者たちはどのように行動すべきか分からず、最初は戸惑いを覚えるだろう。しかし、アテンドスタッフはまるで忍者かのように、暗闇をずんずんと前に進んでいく。「暗闇の中で人は対等な出会いがあります。日常生活は助けられる側、として捉えられることもある視覚障害者に暗闇の中では幾度も助けられます。立場を変えるとアテンドスタッフにとっても学びがあるんです」。暗闇の中では全員が何も見えない暗闇の中にいるのだから視力は全員等しい。そこで初めて対等な対話が可能になると語った。
志村さんは対話の案内人を務めるアテンドスタッフの育成にも力を入れていると話す。体験をリードするにあたり、事前に講習を受講し、経験を積む。暗闇の世界でアテンドスタッフが忍者の如く動き回ることができるように、「できない」とみなされがちなことも、環境を変えれば「できる」につながる。
対等な対話に欠かせない要素が「照度ゼロ」の暗闇だ。空間全体が暗闇に包まれるので、アイマスクやゴーグルを付けるとのは異なり、暗闇から自らの力だけでは抜け出せない。「照度ゼロ」にこだわったのは「完全に対等な関係を作るため」と志村さん。もし少しでも光が差し込んできたら、視力が良い人が有利になってしまうからだという。季節ごとに太陽が差し込む角度などが変わることから、部屋の中で光が少しでも漏れている箇所はないか、スタッフが定期的に確認するほどの徹底ぶりだ。
都市部ではそう簡単に体験することができない真っ暗闇の世界。もし、1人で取り残されたら……と考えるだけでゾッとするような暗さだ。しかし、参加者には心強いアテンドスタッフと仲間がいる。初対面のはずのスタッフと参加者たちは互いをニックネームで呼び合い、次第に打ち解け温かい雰囲気が広がる。1時間半の旅を終えた頃にはなんだか同志になったような気分さえ感じる。

能登を感じる1時間半 分からなさを抱きしめて
日本で開催されるダイアログ・イン・ザ・ダークは年に4回ほどテーマが変わる。冬季には愛をテーマにした「LOVE IN THE DARK」が開催されたほか、被爆から80年を迎えた昨夏には平和を考える「ピース・イン・ザ・ダーク」が開催された。さまざまなテーマが季節ごとに変化する中で、今回記者たちが参加したのは「能登への春の旅 暗闇の列車で出かけよう。さあ、能登へ!」だ。電車に揺られて能登へ旅をする1時間半。輪島市名舟町に伝わる郷土芸能、御陣乗太鼓(ごじんじょだいこ)を聴きに出かける。志村さんたちは昨年の冬、能登へ出向いた。2024年元日に発生した能登半島地震の影響で、甚大な被害を受けた地域。そこで目にしたのは、「恩送り」の精神だった。「遠い国の世界情勢については連日報道されているけれど、能登半島で起きた地震についての報道は日が経つごとに減ってきていて、記憶が薄れてきた人もいるかもしれない。昨年足を運んだ時に、能登に支援をしていたのは東日本大震災で被災した経験のある方々でした。自分がしてもらったことを今度は今大変な思いをしている人に対して送っていたのです」と語る志村さん。単に楽しいと感じるだけではなく、日本が抱える社会課題も絡んだプログラムが完成した。参加者が旅をする1時間半の中でも、身をもって「恩送り」を体感することができる仕掛けが満載だ。
アテンドスタッフにマニュアルは存在しない。特別な配慮が必要な参加者がいたら、都度話し合って進めていく。さまざまな背景のある人が暗闇に集うことができるのだ。シンと静まり返った暗闇の中に響くのは白杖の先が滑る音と参加者の声。しかし、明かりが戻ったらそこは体験者にとってはいつもの世界。暗闇にいた時間は参加者にとってまるで異世界のように感じることもあるだろう。「暗闇の世界と普段過ごしている世界は参加者にとっては劇的な変化があるでしょう。でも目を使わない世界の中でずっと過ごしている人もいる、ということに気付くはずです」と志村さんは語りかける。思わずハッとさせられる言葉だ。さまざまな立場の人の状況や気持ちを完全に分かることはできない。けれど、その分からなさも大切にしてほしいと話す志村さんの言葉に、ダイアログ・イン・ザ・ダークが目指す対話の精神が込められているように感じられた。

ダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」のサイトはこちら
https://taiwanomori.dialogue.or.jp/
The post 火ようミュージアム ダイアログ・イン・ザ・ダーク 志村真介さんインタビュー 「対等な対話」を目指す思い(後編) first appeared on 東大新聞オンライン.
火ようミュージアム ダイアログ・イン・ザ・ダーク 志村真介さんインタビュー 「対等な対話」を目指す思い(後編) 2026 IUSTITIA.BG – Investigations 2009-2025 2026-07-29 02:00:41
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