完全な暗闇の中で人は何を頼りに生きるだろうか?ダイアローグ・ジャパン・ソサエティがダイアログ・ダイバーシティミュージアム(東京都港区)で提供する「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は、照度ゼロの暗闇で視覚障害者の案内のもと、チームで対話を行うイベント。記者2人が体験し、ダイアローグ・ジャパン・ソサエティの志村真介さんを取材した。(写真は全てダイアローグ・ジャパン・ソサエティの提供)(取材・丹羽美貴、宇城謙人)
<ダイアログ・イン・ザ・ダーク 後編はこちら>
「DIALOG IN THE DARK能登への春の旅」を記者が体験
記者が体験したのは、「DIALOG IN THE DARK能登への春の旅」。能登半島地震から2年後の能登を、視覚以外の感覚で旅するコンセプトだ。暗闇でさまざまなシーンを体験しながら、白杖を頼りに電車で能登を目指す。
今回の参加者は4人で一つのチーム。明かりのついたロビーから、一人一人自分の身長に合う白杖を持って薄暗い部屋へ。視覚障害者のアテンドスタッフの1人・いっしーの案内のもと、次第に明かりを消して「照度ゼロ」の世界へ。文字通り真っ暗闇な空間は、視覚が一切使えず、戸惑う。頼るものがない世界で、白杖で地面を叩いた感触で進んでみるも、方向や距離感が全く分からない。いっしーの声のする方角を頼りに進んでみる。
ここでいっしーの掛け声、チームで「輪になってみましょう」。これが一苦労だ。メンバーの立ち位置どころか、方向も距離感も分からない。必死でそれぞれのメンバーの声のする方向と、メンバーの手を使って輪になる。「普段」なら目で見て分かる情報も、ここでは「わざわざ」丁寧に声掛けをせずには分からず、一苦労だ。
「なんとか輪になれた」チームを横目に、いっしーは暗闇に慣れている。輪になった後のいっしーのひとこと「遊んでみよう」。最初はボールでパス回し。暗闇でパス回しなどできるのか、ヒヤッとする。ボールの音と、他のメンバーの声でなんとかパス回し。次は「ブランコに乗ってみよう」。暗闇の中で白杖を使ってブランコの位置を探し当てた。
次のいっしーの一言は「電車に乗りましょう」。電車まで、チームで歩くのだが、それもまた一苦労。列になって前の人の肩に手をかけ、互いがどこにいるか分かって一安心。しかしそれも束の間、いっしー曰く「もう電車の中に着きました。座席に座ってみましょう」。しかし見えないのだから、どこにどんな形状のものがあるのか分からない。するとメンバーの1人が「これはボックス席かな?」と言い出す。記者が想定したのは(通学で見慣れた)ロングシートだったが、そうした前提も前提たり得ないことに気付かされる。そして2席ずつ向かい合った4人がけのボックス席であることが分かっても、お互いがどこにいるのか分からない。「普段」だったら絶対に声をかける必要もないが、「皆さんどこに座っていますか?」と尋ねてなんとか自分の席を確保。電車で向かう能登は祭りの盛んな地域だ。時間が経つにつれ、祭りに使う太鼓の大きな音が聞こえてくる。鼓面を叩く大きな音と、縁を叩く乾いた音。いろいろな音が交差し、この太鼓は何人がいくつの太鼓を叩いているのだろうか……?と見えないながら想像が膨らむ。
電車を降りて着いたのは伝統文化である太鼓にまつわる建物。もっともどんな建物かはすぐに分からない。靴を脱いで縁側に上がり、手探りで畳張りであることを突き止める。次に立ち上がって手で壁をつたい、部屋に何があるか探し当てる。部屋の中央のちゃぶ台を4人で囲んで座る。そこで出されたのは大福。大福であることはいっしーに教えてもらったから分かるが、その味は見当がつかない。ここでも「普段」どれだけ視覚に頼っているのかにハッとさせられる。
目の見える私にとっての「普段」は結局、目の見える人にとっての普通なのだと気付かされる。そしてそれを内面化し、そうでない世界への想像力を欠いているのではないか。目の見えない人には、列車の席が4人がけのボックスシートであるか否かも、前提ではない。
ただし、それは「かわいそう」ではない。暗闇の中をスイスイと進むいっしーには頭が上がらないし、心強い。彼らが暗闇でどのような世界を見ているかは分からない。しかし彼らと互いに支え合って生きるということ、そしてその意味で対等で尊重すべき相手だということに、暗闇という、視覚において彼らと対等な空間にあって改めて気付かされる。
「DIALOG IN THE DARK 能登への春の旅」を体験した2人の記者、【美】と【宇】。体験を通じて、どのような感想を抱いたのだろうか。
【美】→ダイアログ・イン・ザ・ダークの体験は2回目。
【宇】→ダイアログ・イン・ザ・ダークの体験は初めて。でも能登には7回行った。
暗闇の世界って想像できてた?
【美】ダイアログ・イン・ザ・ダークって体験する前、どんな感じだと思ってた?
【宇】想像がつかなかったというのが正確かな。暗闇でどんな感覚を頼りにするのか分からなかった。白杖で何が分かるのかとか、視覚障害のある人がどう生活しているのか、その辺りも想像できていなかったよね。
【美】確かに。暗闇で旅をする、能登を感じるってどういうことかっていうのは私も想像していなかったな。
【宇】初めて体験した時はどれくらい想像できた?
【美】全く想像できなかったな。私は元々暗い所、例えば暗いアトラクションとかがとても苦手で、ダイアログ・イン・ザ・ダークも怖くないかな?という心配がすごくあって。でもそれがいい意味で裏切られた。というのは怖さよりも楽しさが大きかった。
【宇】でも【美】さんは慣れていると思ったな。チーム内で声かけしようとしていたりしたし。
【美】自分の不安を口に出すことはしたかなあ。一口に「曲がります」って言っても左に曲がるか右に曲がるか分からないじゃん。そこで「左に曲がります」と言うようにしたな。自分にとって不安なことは他人にとっても不安だと思って発言するようにしていたかもしれない。
【宇】見えている環境だったら「左に曲がります」なんて言わなくても分かるわけじゃん。普段は意識しないようなところに意識を向けて、コミュニケーションを取らないといけないことが感覚として面白かったな。経験から想像できることに想像を働かせるのは簡単だけど、その意識にないに想像を働かせるのは新鮮。
【美】光が無くなっていくことは怖くなかった?
【宇】顔が見えないのは怖かったかな。あと、音にすごい敏感になった。途中でボールでパス回しをやったじゃん?あの時ボールからする音に敏感になった。パスしている時にボールの場所が分からなくなって、そのままボールが止まって音もしなくなって、どうやって探すんだろうと思ったらいっしーが見つけてきた。あの時社会的弱者ってなんだろう、って考えさせられたよね。
【美】環境が変わればマジョリティって特権じゃなくなるんだよね。この体験は照度ゼロっていうところが面白いところだと思ってて。私たちが白杖を使ったり声かけながら進んでいくところで、いっしーはスイスイ進んでいくわけだよね。何をもって「弱者」とされるのかは環境に依存するな、って思った。
「見えない」世界での想像力
【宇】いろいろあると思うけどどこが面白かった?
【美】電車の衝撃が大きかったな。ボックス席だって分かったけど、それは自分が見たことがあるボックス席を想像して動いているわけで。生まれつき目の見えない方は私たちが視覚で捉えているようなものとは別の角度からボックス席を認識していると思うと難しいと思った。目の見える人は目の前にあるものを見て安心感を見つけることができるけど、生まれつき目の見えない人は違う困難を抱えているかもしれない。
【宇】電車のところ、結構僕も迷ったんだよね。座席を触ってやっとボックス席だって分かった。あと、みんなが座っている場所をわざわざ聞かないとどこに座って良いのか分からないんだって。普段、我々がどれほど見たものを瞬時に判断して、「当たり前」として取り込んでいるかが分かったな。
【美】電車の中では聴覚情報も大きいと思う。この前電車の中で盲導犬を連れて乗っている人がいて、みんな声に出さずに席を空けていたの。それは気遣いだけど、それだけじゃ目の見えない方には不安かもしれない、声をかけたら不安を解消できたのかなって思った。
【宇】暗闇で我々がいっしーから声をかけられないのと同じだもんね。その状況では僕は何もできないかも。
【美】体験が進む中でチームみんながしゃべりやすくなっていったのは大きかったかなあ。最初はお互いお見合い状況で誰から喋るか分からなかった。暗闇では視線を送って話す順番を決められないから、自分から喋るか、あるいは順番を決めて喋らないといけなかった。
【宇】そうだね。体験後明るい場所に出て、いっしーとメンバーで話をした時、目配せしながら発言のタイミングを見計らっていたけど、その時いっしーを置いてけぼりにしていたかもしれないと思った。
【美】私は【宇】さんの声はよく知っているけど、他の2人もメンバーの声は知らなかったから、暗闇で4人の声を聞き分けないといけなかった。そこで改めて【宇】さんがこんな声をしていたんだなって気付いたし、聴力に対する集中力を先鋭化させていっていたな。
【宇】多分それは暗闇の中で感覚が限られる中での不安の裏返しなんだよね。
「分かる」って何?
【宇】ダイアログ・イン・ザ・ダークってどんな人に体験してほしい?
【美】これはいわゆる障害者体験のようなものとは一線を画していると思う。障害者のことを学ぼうとか、障害ってなんだろうとか考えるんじゃなくて、楽しい濃密な時間を過ごしに行く気持ちで行ってほしい。
【宇】障害のある人を客体化したコンテンツにするのではなく、純粋に楽しめるコンテンツ。だからこそ、障害のある人との関係がフラットになるんだろうね。
【美】そうそう。教訓じみているんじゃなくて楽しい。
【宇】その中で、障害のある方が生きている世界を理解した上で、相手を対等な存在として尊重できる目線も育まれる。
【美】あとね、私は周りに気を配りすぎて自分に気を配るのを忘れそうになっていた。自分が目を開いているかつぶっているかとか。
【宇】暗闇の中では目をつぶっても変わらないけどね。
【美】そうそう、だから分からなかった(笑)。自分の状況にも想像がついていなかったってことかな。
【宇】いろんなところへの想像力って存在するんだね。あえてまとめると、僕はやっぱり少しでも当事者目線に近づけたと思う。これまで想像もつかなかったような当事者目線が存在するんだと思った。目の見えない人に「あなたの気持ちは分かります」と言えば一見優しいけど、本当はその人たちの世界を想像できてないだと気付けたな。
【美】今回の体験で完全に目の見えない人の世界が理解できたとは思わない。でも分かろうとする努力はするし、気持ちとして寄り添っているということをちゃんと言葉にして伝えられると良いなって思った。
ダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」のサイトはこちら
https://taiwanomori.dialogue.or.jp/
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火ようミュージアム ダイアログ・イン・ザ・ダーク 暗闇の中で対話の地平へ(前編) 2026 IUSTITIA.BG – Investigations 2009-2025 2026-07-29 02:00:49
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